本研究の要点
- 広告の背景画像による「冷たさ」の想起が、商品の「新しさ」の知覚向上に影響することを発見。
- この効果は製品スタイルがモダンな場合により顕著。
- 時間面、金銭面でコストを抑えた新たな広告開発に貢献。
研究の概要
上智大学経済学部経営学科の外川拓准教授、青山学院大学経営学部マーケティング学科の石井裕明准教授、中央大学商学部国際マーケティング学科の朴宰佑教授、ボンド大学(オーストラリア)のRajat Roy准教授の共同研究グループは、新製品の広告において、「冷たさ」を連想させる背景画像を用いた場合、製品に対する「新しさ」の知覚が高まることを明らかにしました。
新しさの知覚とは、消費者が主観的に製品を新しい、革新的、創造的と感じる程度のことを指します。製品の新しさを知覚することで消費者の購買意欲が促進されるため、製品の成功にプラスの影響を与えると考えられています。しかしながら、広告の背景画像が「いつ、どのようにして消費者に製品の新しさを伝えるのか?」という点については、これまで明らかにされていませんでした。そこで本研究グループは、この疑問に対する答えを求めるために、各種検討を行ってきました。
本研究では、「冷たさ」から「新しさ」を知覚するメカニズムについて解明することを目的とし、異なる4つの実験を行いました。その結果、広告に冷たさを連想させる背景画像(例えば、雪景色の写真など)を掲載することによって、広告製品に対する新しさの知覚が高まることがわかりました。また、この効果は広告製品の外観がモダンな場合に現れやすいことも明らかになりました。さらに、消費者の製品購入までの期間が製品評価に影響することも示唆されました。本研究をさらに発展させることで、製品や企業への革新的なイメージを作り上げる効果的な広告コミュニケーションの開発に対する貢献が期待されます。
本研究成果は、2023年3月1日に国際学術誌「Journal of Business Research」にオンライン掲載されました。
研究の背景
消費者が知覚する製品の新しさは、企業にとって、売上、支払意思額、新製品の普及を高めるための重要な要因であるといわれています。従来、マーケティングにおいて、製品の新しさ知覚は、製品デザインや機能の改善によって高められてきましたが、これには、製品そのものの再設計、生産プロセスの再構築など多額のコストを要します。
そこで研究グループは、時間的、金銭的コストをさほど必要としない広告画像に着目しました。特に、広告に掲載される背景画像は、製品のコンセプトを消費者に伝えるための重要な役割を果たしています。広告において最適な背景画像を使用することによって、製品に対する特定のイメージや印象を形成することもできます。従来の研究から、消費者が製品に対して新しさを感じるのは「曖昧さ」(製品の特徴を明確に評価することの難しさ)が要因の1つであることがわかっていました。しかしながら、製品の曖昧さに対する知覚を高めたり、低下させたりする要因については、これまで明らかにされていませんでした。同時に、新しさの知覚がどのような条件で生まれ、それがどのようなときに製品評価に影響を及ぼすかについては、未解明のままでした。
本研究グループは、実際の自動車の広告を目にしたことをきっかけとし、広告クリエイターや消費者が「冷たさ」=「新しさ」という連想を無意識のうちに持っているのではないかという仮説を立てました。通常、日本語の表現では、「彼女は冷ややかな目で私を見た」、「彼の発言によって、その場が凍り付いた」など、「冷たい」という感覚はネガティブな意味で用いられることが少なくありません。実際、冷たさよりも温かさを感じたときのほうが製品への評価や購買意欲が高まるという報告は複数ありますが、冷たさが消費者行動にポジティブな影響を与えるという報告はほとんどありません。そこで、本研究グループは「冷たさ」=「新しさ」の連想が消費者行動にポジティブな影響をもたらすという仮説を検証すべく、広告の背景画像から伝わる温度感と、広告製品への新しさ知覚の関係性の解明に取り組みました。
研究結果の詳細
本研究グループは、「広告の背景画像は、いつ、どのようにして消費者に製品の新しさを伝えるのか?」という問いを以下の4つの仮説に分解し、それぞれの仮説に対して、実験による検証を行いました。
仮説(1): 冷たさを連想させる背景画像は、広告製品の「新しさ」の知覚を高める。
冷たさに関連する背景画像が新しさの知覚に及ぼす影響を検討しました。その結果、例えば雪景色の写真など、冷たさを連想させる背景画像によって、広告製品に対する新しさの知覚が高まることが実証されました。
仮説(2): 仮説(1)で予測された効果は、心理的距離と製品の曖昧さによって媒介される。
「仮説(1)に示した影響関係が、なぜ生じるのか」というメカニズムを検討しました。分析の結果、冷たさが広告製品に対する心理的遠さを連想させ、そこからさらに製品の曖昧さが想起されることがわかりました。
仮説(3): 仮説(1)で予測された効果は、製品の外観がアンティークではなくモダンである場合に現れる。
広告製品の外観(アンティーク、あるいはモダン)によって、背景画像による影響の強さが異なるのではないか、という点について検討しました。その結果、製品外観がモダンであるときに、背景画像が新しさの知覚に及ぼす効果が現れやすいことが示唆されました。一方、広告製品の外観がアンティーク調のとき、この効果は消失しました。
仮説(4): 新しさの知覚が製品評価に及ぼす効果は、購入までの時間的距離によって調整される。
広告の背景画像によってもたらされる新しさの知覚が、製品評価に及ぼす効果を検討しました。その結果、背景画像によってもたらされる新しさの知覚は、広告製品の購入予定が遠い将来にある場合には消費者の製品評価を高め、近い将来に購入予定がある場合には製品評価を低下させることがわかりました。
本研究について、研究を主導した上智大学の外川准教授は「本研究は、適切な広告画像を使用することで、製品の新しさ知覚を高めることが可能であること示唆しています。長期的な視点では、広告画像と製品知覚との関係を明らかにしていくことで、より効果的、効率的なマーケティング活動を実現することにつながると考えています」と、今後の可能性について語っています。
※本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(19K01943)の助成を受けて、実施されました。
論文名および著者
- 媒体名: Journal of Business Research
- 論文名: The temperature of newness: How vision–temperature correspondence in advertising influences newness perception and product evaluation
- オンライン版URL: https://doi.org/10.1016/j.jbusres.2023.113801
- 著者(共著): Taku Togawa, Hiroaki Ishii, Jaewoo Park, Rajat Roy
本リリース内容のお問い合わせ
■研究の内容について
上智大学 経済学部 経営学科
准教授 外川 拓 (E-mail: togawa@sophia.ac.jp)
■報道関係のお問合せ
上智学院広報グループ
E-mail: sophiapr-co@sophia.ac.jp