私たち1人ひとりを“かけがえのない存在”として受け入れるために必要なこと。

牧田 莉香子さん
神学部神学科3年

「当たり前の習慣について問われたことで、私の既存の価値観から自由になれたと思います」と語る神学部3年の牧田莉香子さん。カトリックが重視する「対話」を通して大切なことに気づいた彼女が描く、今後の自分の在り方と社会における役割とは?

日常的なシーンでも自分にはない価値観と触れ合う

小中高とミッションスクールに通っていた私にとって、キリスト教は幼い頃からアイデンティティの一部でした。大学では、キリスト教を学問として学びたいと思い、日本で唯一のカトリック神学部がある上智大学を選びました。さまざまな言語が飛び交うキャンパスのメインストリートを歩いていると、世界と繋がっているような感じがして、ワクワクします。

神学部といっても、すべての学生がクリスチャンというわけではありません。上智の神学部には、留学生や帰国子女の学生もいれば、学生の年齢層の幅も広いです。このような環境で、多様なバックグラウンドを持つ方々との対話を通じ、自分の視野が大きく広がったと感じています。例えば、食堂でイスラム教徒の方でも安心して食べられるハラルフードや、ヴィーガンに配慮したメニューを選ぶ学生たちと知り合う機会があったのですが、私には自分の価値観や宗教観を食に反映させるという経験がなかったので、大きな学びになりました。

また、私はキリスト教を学ぶ一方で、大学の部活では弓道部に所属し、日本古来の武道でもある弓道の練習に勤しんでいます。尊敬できるメンバーたちと、お互いに切磋琢磨する中で自分の成長を実感する日々ですね。弓道は感情の乱れが射技に大きく反映される競技なので、射法の習得だけでなく心の鍛錬にもなっていると思います。

キリスト教の価値観を社会と自分の在り方に反映させる

神学部には、キリスト教、そしてカトリックを学問として追求するようなイメージがあるかもしれません。入学前は私もそのように思っていましたが、実際はカトリックの価値観を中心に、現代社会の問題にアプローチしていく学部と感じています。それを実感したのは「平和学」の授業。北アイルランドの紛争の事例を通して、対立関係下での一致を目指すためには「対話」が重要であることを学んだのですが、対話はキリスト教でも大切にされている考え方です。キリスト教が現代社会にアプローチできる1つのキーワードとして、対話があると思うきっかけになりました。

神学部での学びを通して、より身近なところにもキリスト教の価値観が根付いていると感じるようになりました。例えば、現代のグローバル社会で標榜されている「持続可能な社会の実現」や「多様性の受容」といった動きの根底には、キリスト教が重視する「1人ひとりをかけがえのないものとして大切にする姿勢」があるように思うのです。この誰1人取り残さないという価値観は「他者のために、他者とともに」という上智大学の教育精神にも通じていますよね。

こうした学びの過程で、他者があってこそ自分が存在することを改めて認識しています。他者を遠ざけるのではなく、寄り添って痛みや喜びを共有できる人間でありたいと思うようになりましたね。また、入学前は卒業後の進路を思い描くことが難しかったのですが、さまざまな物事をカトリックの視点から考えていくうちに、その学びが幅広い職業で役立つことにも気づきました。

当たり前の習慣を問われて限定的な思考に気づく

他学部に比べて少人数の神学部では、学生同士だけでなく学生と先生方の距離も近いです。クリスチャンの学生が当たり前だと思っていることにクリスチャンでない学生が疑問を投げかけてくれて、それが大きな発見や気づきに繋がることも珍しくありません。例えば、私を含め、毎週教会に行くことを習慣にしているクリスチャンは多いですが、クリスチャンでない学生に「どうして毎週行かなければならないの?」と聞かれたときは、ハッとしました。当たり前の習慣について問われたことは、既存の価値観を見つめ直すきっかけになったと思います。

今思うと、入学前の私は「普通であること」を限定的に解釈していました。多数派の意見や自分自身の経験に沿うものだけを「普通」として捉えていたんです。でも、さまざまな人と関わりながら神学を学ぶ過程で、多種多様な価値観を受け入れられるようになりました。自分自身に対しても、人に対しても「普通はどう」ということを限定して考えないようになったのは、この3年間で自分が一番成長を感じる部分。何を普通として何を大切にするかは、人によって違うんですよね。

だから今は、それぞれが思う普通と大切が、そのまま尊重される社会を作り出せる人間になりたいと思っています。「普通はこうだから」という考えを排除して、すべての物事について、フィルターを介さずフラットな目線で見たいんです。その上で将来は、マイノリティの方々にできるだけ寄り添うような職業を選択したい。社会の中では少数かもしれないけれど、その少数の中にも尊厳があるという神学部での大事な学びを十分活かせる職業に就きたいと思っています。

※この記事の内容は、2021年10月時点のものです

上智大学 Sophia University