「大学に入るまでは「科学で証明できることが正しい」というような考え方に近かったと思うんです」と語る大学院理工学研究科機械工学領域1年の森谷瞭さん。文理融合のキャンパスで多様な価値観と学問に触れる中で、森谷さんを成長させた数々の気づきとは?
考え方や発想が異なる人と関わる中で学んだ“それぞれの正しさ”
私が上智大学を選んだのは、文系と理系が同じキャンパスにあり、さまざまな学生と一緒に学べるということに大きな魅力を感じたからです。実際に、入学後は授業やアーチェリー部の活動を通してたくさんの人と出会い、自分の価値観や多様性を磨くことができました。
正直、大学に入るまでは「科学で証明できることが正しい」というような考え方に近かったと思うんです。でも、自分にはない考え方を持ったさまざまな人と出会い、交流する中で、それぞれに正しさがあるという事実に気づくことができたのは、4年間で自分が一番成長した点だと思います。
また、文系の学生と交流すると、発想の違いに驚くことが多々あります。つい先日も法律を勉強している人と話していたら、建物の高さと法律の関係性について教えてくれました。文系の人たちとは、発想が全然違うなぁと思うことがよくあるんです。同い年、同じ大学の学生でも、学んできたことによって見えるものが違うんですよね。理系の枠に留まっていてはいけないなと気づかされた瞬間でした。
“知らないこと”に気づいたから見えてきた“本当に学びたいこと”
理工学部の好きなところを聞かれて一番に思い浮かぶのは、多岐にわたる分野の勉強ができるところ。全ての学部が四谷に集う上智の良さが、理工の学びにも効いていると思います。例えば、理工系にいながらも経営の視点から数学を学ぶ機会や、国際的な環境問題への取り組みを学ぶ機会を得ました。また、「キリスト教人間学」という授業の中で、科学と哲学の関係性を宗教的・歴史的な背景から学ぶ機会がありました。今までに学んだことが繋がっていく感覚は刺激的でしたし、理系も倫理学的な視点を求められていることを実感しました。
このように1つのことを複数の視点で捉えると、さまざまな学問に数学が絡んでいたり、一見全く違う学問同士が実は繋がっていたりすることが分かってきます。これは大学の勉強が高校の勉強と一番大きく異なる点かもしれません。複合的かつ多角的に学ぶことで、今まで無知だった自分に気づくことができたのも大きな収穫。自分が知っていることよりも知らないことのほうが圧倒的に多いんですよね。それで、学びに対する意識や姿勢がいい方向に変わったと感じています。
実を言うと、入学当初の私には、学びたいことが明確に決まっていまっていませんでした。でも、機能創造理工学科では、機械と電気と物理を包括的に学ぶことができるので、自分が本当に学びたいことを見つけることができました。学科の先生方の専門は実に多彩で、さまざまな領域のスぺシャリストばかり。そんな先生方とのディスカッションを通じて得た知見を自分の研究に活かすようにしています。また、英語の論文が読めると最新情報や専門分野の動向が把握できるようになるので、英語の勉強にも力を入れていますね。研究室にいる留学生とも積極的にコミュニケーションを取るようにしています。
やりがいのある研究に打ち込みながら目指す“次世代のエンジニア”
卒業後は大学院に進学しました。学部の授業で学んだことを学会発表などの場でアウトプットするという経験を積みたいと思ったからです。学会発表では、同じ分野の研究を専門とされている企業の方や専門家の前で自分の研究成果を披露し、評価されるわけですが、そのような現場に立ち会うと、学問の進歩に立ち会えているような感覚があるんです。社会人でもなかなか経験できないことだと思いますし、研究をする上でのモチベーションになっています。また、私の研究室には世界に1台しかない装置があって、その装置を使って得られたデータは世界初のデータになる。そんな新発見の瞬間に立ち会えるなんて、刺激的で面白いと思いませんか?
現在は「鉄の水素脆性」という現象を研究しています。鉄は昔から人類の成長に不可欠な物質でした。事実、鉄鋼材料は車や橋などに幅広く使われています。私の研究は、その重要な物質をより幅広く使えるようにするというもの。この研究は鉄鋼メーカーと共同で行っていますが、学会発表における自分の発言が企業のイメージにも影響するため、責任感を持ちながら取り組んでいます。専門家の前で発表するのはとても緊張しますが、その中でも上手く発表できたときは大きな達成感がありますよ。
今の時代、エンジニアが設計のことだけできていてもダメだと感じます。ただ安い物やいい物を作ればよかったのは過去の話で、今は地球環境や生産効率にまで視野を広げられるようなエンジニアにならなければならない。現在就職活動をしていますが、その中でも理系が人文系をはじめとした幅広い知識を身につけることの必要性は強く実感しています。文理を問わず学べる環境はとてもありがたかったですね。将来、子どもたちに自信を持って自分の職業を語ることができるエンジニアになれるように努力していきたいと思います。
※この記事の内容は、2022年2月時点のものです