有機分子を加える手法を開発、変換効率1.4倍、100日後も約85%の性能を維持

本研究の要点

  • 鉛を使わないスズ系ペロブスカイト太陽電池において、擬二次元構造を持つ光吸収層に有機分子2-アミノベンゾチアゾール(2-ABZ)を添加剤として加える手法を開発。
  • 2-ABZ添加により、変換効率が6.60%から9.07%へ約1.4倍に向上するとともに、100日間保管した後の性能維持率も約49%から約85%へと改善。
  • 窒素と硫黄を含む2-ABZが、欠陥のない膜形成、ヨウ化物イオンの移動抑制、スズの酸化抑制という複数のはたらきを担うことを解明。

研究の概要

上智大学理工学部物質生命理工学科の竹岡裕子教授、Jorim Okoth Obila特別研究員(現Department of Physics, North-West University, South Africa)、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)エネルギー・環境材料研究センターの白井康裕グループリーダー、柳田真利主幹研究員の研究グループは、鉛を使わないスズ系ペロブスカイト太陽電池(※1)において、擬二次元構造を持つ光吸収層に、有機分子である2-アミノベンゾチアゾール(2-ABZ)を添加剤として加える手法を開発しました。この手法により、光電変換効率は添加しない場合の6.60%から9.07%へ大きく向上しました。同時に100日間保管した後の初期性能維持率も添加しない場合の約49%から約85%と大きく高めることに成功しました。

ペロブスカイト太陽電池は、薄く軽量で柔軟性が高く、次世代太陽電池として期待されています。現在、高い光電変換効率が得られているものはペロブスカイト層(光吸収層)に鉛を含んでおり、安全性の課題があります。鉛の代替元素としてスズを用いれば毒性を下げられますが、スズは酸化されやすいため、効率と耐久性をどう高めるかが課題となっていました。

この課題に対して、有機分子の層と無機の層とが交互に積み重なった「擬二次元構造(※2)」を光吸収層に用いる研究が進められています。三次元構造のものより安定性に優れますが、この構造の有機分子の層が電気を通しにくいため、擬二次結晶の薄膜形成方法が重要で、均一な薄膜形成が大きな課題でした。

本研究グループでは、この擬二次元構造を持つペロブスカイト結晶をつくる際の添加剤として、2-ABZに着目しました。窒素と硫黄というヘテロ原子をあわせ持つ2-ABZを加えることで、結晶がゆっくりと成長するように促し、隙間のない膜をつくることができます。さらに2-ABZは、ペロブスカイトの構造から抜け出しやすいヨウ化物イオンをその場につなぎ止め、スズの酸化を抑えるはたらきも示しました。本研究をさらに発展させることにより、鉛を使わない、より安全な太陽電池の開発が進むことが期待されます。

本研究成果は、2026年5月27日に国際学術誌「Solar RRL」にオンライン掲載されました。

研究の背景

鉛を含むペロブスカイト太陽電池に代わる材料として、スズ系の開発が世界的に進んでいます。スズ系ペロブスカイトの光電変換効率は近年急速に向上しています。しかし、高い変換効率を持つのはスズ系ペロブスカイトのうちでも三次元の結晶構造を有するものです。

金属とハロゲンからなる無機の骨格部分が途切れることなくつながっているため、電荷が向きを問わず流れやすく、変換効率が高くなるためです。一方、ペロブスカイトの骨格を担う2価のスズ(Sn²⁺)は電子を奪われやすく、4価(Sn⁴⁺)に変わると光を電気に変えるはたらきを失います。この酸化のために、耐久性に大きな課題が残されていました。

これに対し、擬二次元構造は耐久性に優れるものの、絶縁性を持つ有機分子の層が電気の通り道を遮ってしまいます。さらに光吸収層と隣り合う電荷輸送層とのあいだにはエネルギー準位(※3)にずれがあるため、三次元構造ほどの効率が得られません。効率と耐久性をどう両立させるかが、スズ系ペロブスカイト太陽電池の課題となっていました。

研究結果の詳細

研究グループはまず、ペロブスカイト層(光吸収層)の前駆体溶液に2-ABZを溶かし込み、これを基板に塗り広げて膜をつくりました。走査型電子顕微鏡で観察したところ、2-ABZを加えない膜には多数の穴(ピンホール)が見られたのに対し、最適な量を加えた膜は表面が隙間なく覆われていました。赤外分光測定では2-ABZとスズのあいだで電子対をやりとりする相互作用が確認されており、これが結晶の成長を穏やかにし、膜の質を向上させたと考えられます。

次に、この膜を光吸収層とするスズ系ペロブスカイト太陽電池を作製しました。2-ABZを加えた素子は、開放電圧702.93 mV、短絡電流密度18.35 mA/cm2、曲線因子70.29%、光電変換効率9.07%を示しました。一方、加えていない素子はそれぞれ626.20 mV、15.19 mA/cm2、69.39%、6.60%であり、特に開放電圧と短絡電流密度が大きく改善しました。

変換効率が高まった理由を調べるため、紫外光電子分光により光吸収層のエネルギー準位を測定しました。2-ABZを加えることで価電子帯と伝導帯がそれぞれ0.23 eV、0.22 eV移動し、隣り合う正孔輸送層とのずれ(エネルギー準位の差)が小さくなるとともに、電子輸送層とのずれも縮まることが分かりました。この差が小さいほど電荷は界面で流れやすくなるため、開放電圧の上昇につながったと考えられます。

膜の中の変化をX線光電子分光で解析しました。酸化によって生じる4価のスズの割合は10%から8.5%へ、ヨウ化物イオンやその関連種の割合は27%から14.6%へといずれも減少していました。あわせてヨウ化物イオンと窒素に由来するピークの位置が移動していたことから、2-ABZのアミノ基とヨウ化物イオンのあいだに水素結合が形成され、ヨウ素をペロブスカイトの構造につなぎ止めていることが示されました。さらに二次イオン質量分析では、電子輸送層の表面に達したヨウ化物イオンの量が2-ABZを加えた試料で大幅に減少しており、ヨウ化物イオンの移動が実際に抑えられていることが確かめられました。

封止をしていない素子を大気中で100日間保管して耐久性を評価した結果、2-ABZを加えた素子は最高効率の84.94%を保っていたのに対し、加えていない素子は48.95%まで低下しました。擬似太陽光を当てながら最大電力点で連続して発電させる試験でも、2-ABZを加えた素子は10時間後に初期効率の88.9%を維持しましたが、加えていない素子は1時間ほどでほとんど発電しなくなりました。

今後の展望

本研究の成果について、研究を主導した竹岡教授は「ペロブスカイト化合物の研究を25年以上続けるなかで、その知見をより安全な太陽電池に生かしたいと考えてきました。今回の成果は、擬二次元構造の活用とヘテロ原子を含む添加剤の選択という、鉛を使わない太陽電池の設計指針を示すものです。研究をさらに発展させて社会実装につなげることができれば、太陽電池の普及が促進され、環境への負荷が少ない形でのエネルギーの確保や、電力へのアクセスが限られている地域への電力供給にも貢献できる可能性があります」と、今後の展開に期待を寄せています。

論文情報

媒体名

Solar RRL

論文名

Molecular Passivation with 2-Aminobenzothiazole Enables Efficient and Stable Ruddlesden–Popper Tin Perovskite Solar Cells

オンライン版URL

https://doi.org/10.1002/solr.70388

著者(共著)

Jorim Okoth Obila, Chunqing Li, Masatoshi Yanagida, Yasuhiro Shirai, Yuko Takeoka

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST)のALCA-Next(課題番号JPMJAN23B2)および上智大学重点領域研究の助成を受けて実施したものです。

用語解説

(※1)ペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ化合物を光吸収層に用いた太陽電池。薄く軽量で柔軟性が高く、塗布によって作製できることから次世代の太陽電池として期待されている。

(※2)擬二次元構造

かさ高い有機分子の層と、金属とハロゲンからなる無機の層とが交互に積み重なった層状の構造。有機分子の層が水や酸素の侵入を妨げるため、三次元構造のものより安定性が高い一方、この層が電気を通しにくいため効率は伸びにくい。

(※3)エネルギー準位

材料中の電子がとりうるエネルギーの値。隣り合う層どうしでこの値の差が小さいほど、電荷が滞りなく移動できる。


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