DNAを鋳型とする次世代ナノ発光材料の理論設計に向け大きな進展

本研究の要点

  • グアニン塩基を多く含む単一のDNA配列を鋳型として、ひとつの反応溶液中から2種類の異なる銀ナノクラスター(DNA-AgNC)が形成されることを発見しました。
  • この2つのクラスターは異なる発光特性を持つことが明らかになりました。
  • 2種類のクラスターのうち、1種類の立体構造をX線結晶解析で決定することに成功しました。
  • 中性条件において銀ナノクラスターとチミン塩基が相互作用する様子を初めて観察しました。

研究の概要

上智大学(東京都千代田区、学長:杉村 美紀)理工学部・物質生命理工学科の金澤宏樹プロジェクト博士研究員と近藤次郎教授の研究グループは、コペンハーゲン大学のTom Vosch教授らの研究グループと共同で、ひとつのDNA配列(5’-TGG ACG GCG G-3’)を用いて異なる蛍光特性を示す2種類の銀ナノクラスターを合成し、それぞれを単離することで個別に分析・比較、さらにはX線結晶解析による立体構造の決定に成功しました。

論文名および著者

詳細は下記のプレスリリースをご覧ください。

論文名

Two of a Kind: Composition and Photophysics of Two Silver Nanoclusters Stabilized by the Same DNA Sequence

媒体名

Journal of the American Chemical Society

論文掲載日

2026年6月18日

DOI

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.6c04812

著者(共著)

Letizia Liccardo*, Hiroki Kanazawa*, Giacomo Romolini, Cecilia Cerretani, Simon Wentzel Lind, Beatrice Polido, Christian Brinch Mollerup, Vanessa Rück, Zhiyu Huang, Leila Lo Leggio, Jiro Kondo**, and Tom Vosch**

*共同筆頭著者(co-first authors) **共同責任著者(co-corresponding authors)

研究の背景

DNAによって安定化された銀ナノクラスター(DNA-AgNC)(※1)は赤外線領域の蛍光を発する特性を持つため、生体イメージングやバイオセンサーへの応用が期待されるユニークなハイブリッドナノ材料として注目を集めています。通常、10~30塩基ほどのDNAオリゴマー1~3本が、10~30個ほどの銀原子、あるいは銀イオンに配位することで、銀ナノクラスターが形成されます。その構造や励起・蛍光波長(※2)(※3)は、DNAの配列と銀の数によって決まることが知られていました。

これまでの研究では、DNA-AgNCを合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(※4)によって安定な1種類のDNA-AgNCを単離することが基本でした。しかし、本研究では単一のDNA配列を用いて、ひとつの反応溶液から2種類の銀ナノクラスター(フラクション1: F1、フラクション2: F2)を合成することに成功しました。さらにそれらを分離して分析することで、光特性や立体構造が異なることが明らかになりました。

質量分析の結果、F1とF2はそれぞれDNA2[Ag19]13+とDNA2[Ag18]12+という組成であることが確認されました。つまり、F1とF2の違いはたった一つの銀イオンの有無であることがわかります。しかし、分光学的特性には明確な違いがみられ、特に、F1の蛍光の減衰時間が22マイクロ秒であるのに対し、F2は67マイクロ秒であることがわかりました。

さらに本研究の大きな成果として、F1のX線結晶解析(※5)に成功し、その立体構造を解明したことが挙げられます。その結果、F1クラスター、つまりDNA2[Ag19]13+は分子の中央に17個の銀によって構成されるロッド状銀ナノクラスターコア構造を持ち、そこから孤立した2個の銀がさらにDNAによって固定されていることが明らかになりました。残念ながらF2の立体構造の決定には至っていませんが、孤立した2個の銀のうち、ひとつが脱離することが予想されます。加えて、チミン塩基が銀クラスターと相互作用する様子を、構造的に初めて観察することにも成功しました。

今後の展望

本研究は、「同一のDNA鋳型であっても、立体構造と光学応答が全く異なるナノクラスターが生成される」という珍しい現象を明らかにしました。DNAの塩基配列がどのように銀ナノクラスターの形成に関与し、光学的特性を調整するのか、という知見はDNAと銀を活用したナノ材料の理論設計に欠かせません。本研究では、蛍光特性を持つナノ材料の設計を目指すうえで非常に有益な知見が得られたことになります。

助成情報

本研究の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)の助成を受けて実施したものです。

用語解説

(※1)銀ナノクラスター:

銀原子、あるいは銀イオンが集合したもの。半径がおよそ20ナノメートル以下のものをナノクラスターと呼び、それ以上の大きさのものはナノ粒子と呼ばれる。

(※2)励起波長:

励起状態へ電子が遷移する際に吸収される光の波長。

(※3)蛍光波長:

励起状態から基底状態へと移行する際に放出される光の波長。

(※4)高速液体クロマトグラフィー:

各種カラムへ液体成分を送り出し、分析・単離するための装置。

(※5) X線結晶解析

分子を結晶化させ、X線を照射し、その回折を分析することで分子の立体構造を決定する手法。


研究内容に関するお問合せ

上智大学 理工学部物質生命理工学科

近藤 次郎 (j.kondo@sophia.ac.jp) 金澤 宏樹 (h-kanazawa-3b9@sophia.ac.jp)

報道関係のお問合せ

上智学院広報グループ (sophiapr-co@sophia.ac.jp)

上智大学 Sophia University