談話の分析を通じて、言語の社会学的影響と言語イデオロギーを明らかにする

外国語学部英語学科 
准教授 
ギャヴィン・フルカワ

社会言語学者として、言語と社会の関連性を研究する外国語学部のギャヴィン・フルカワ准教授。 ディスコース(談話)分析という手法を用い、言語の社会学的影響や言語に埋め込まれたイデオロギーを解明します。日本人の英語観からハワイ・クレオール語の使用まで、多様な研究テーマについて語っています。

私は社会言語学者として、言語と社会の関連性および相互作用を中心に研究しています。ディスコース分析という研究手法を用いますが、日本語で「談話」と訳されるこのディスコースとは、単なる会話を超えたものです。文より大きな言語単位を分析対象とし、私は主に話し言葉を精査しています。

研究では、友人同士の気軽な会話から、選挙での政治討論や政策協議に至るまで、さまざまな形態のコミュニケーションを調べます。各文化や社会における人々の言動、さらには言語使用を通じた多様な文化の交わりについても探究しています。

多様なメディアを通じた言語イデオロギーの構築

私の専門は言語イデオロギーの研究で、言語に埋め込まれたイデオロギーの解明や、イデオロギーを構築するために言語がどのように使われうるかを考察しています。特に、日本のテレビで描写される英語を巡るイデオロギーに関心があります。例えば、テレビを見ていると、日本の人々はよく英語を格好良さや知性と関連付けることが分かりますが、実際のところ、言語運用能力とこれらの資質の間に相関関係はありません。日本社会は英語の流暢さに関して肯定的なイデオロギーを発展させてきたのです。

同様の関連付けはフランス語など他の西洋言語にも認められ、その一方で、東南アジアの言語は軽視される傾向にあります。こうした事例から浮かび上がるのは、日本社会におけるさまざまな言語イデオロギーの存在です。この理論を実証するため、テレビ番組やコマーシャル、雑誌、ソーシャルメディア、飲食店の看板や大学構内の掲示物など、さまざまな媒体を分析しています。言語イデオロギーの存在を裏付けるものは至るところにあるのです。

私は新たな分野にも研究を広げており、その一例が日本のジェンダー問題を取り巻く言語イデオロギーの検証です。日本における性別の境界に焦点を当てた、政府主導の研究プロジェクトにも参加しています。ジェンダーを巡る言語の分析を通じて、従来の性別規範に当てはまらないジェンダー・ノンコンフォーミングの人々が直面する課題の解明を目指しています。

このほかにも、ソーシャルメディアにおける礼儀、特にTikTokでの敬語使用について研究しています。ソーシャルメディアの重要性の高まりは、日本企業の日常業務の在り方、とりわけ社内での礼儀に変化をもたらしたと考えられます。私はこのような変化が日本社会にどう影響しているかを明らかにしたいと思っています。

ハワイ・クレオール語と先住民の文化を調査する

別の研究では、ハワイ・クレオール語の背景にある言語イデオロギーを調査しています。私も含めハワイで育った人々は、ハワイ・クレオール語を使うと無教養と見なされるという理由で、その使用を控えるよう言われてきました。しかし、クレオール語は友好や同盟、ハワイ文化と結びついた価値観や信仰を表すものであるため、私はハワイの人々によるクレオール語の使用について分析を進めています。

さらに、ハワイ先住民に固有の価値観や信仰の中には、従来の学校教育にうまく反映されていないものもありうるため、私はデータ収集を通じて、先住民文化が教育に与える影響を評価しています。また、ハワイやそこに住む人々が映画の中でどのように描写されているかを知るべく、ハリウッド映画の調査にも取り組んでいます。

日本社会における微細な変化が明らかに

私はこれまで、日本の人々が見過ごしがちな日本社会の変化を明らかにしてきました。まず一つ目は、「英語は日本語より優れている」という根拠のない思い込みが、日本人の価値観と自尊心に重大な影響を及ぼしてきたという点です。英語を話す相手への劣等感から、日本人は商談などのさまざまな場面で不利な立場に立たされています。

二つ目は、「厳格で伝統的な日本社会」という概念がもはや必ずしも正しいわけではない、という点です。日本人の言葉のやりとりを観察した結果、今の日本語は一般的に思われているほどフォーマルではないことが分かりました。最近は敬語の使用頻度が減っており、社会における礼儀の感覚も緩やかになってきているようです。企業の上層部と一般社員の間の社会的距離も狭まっており、その背景には、風通しの良い職場を作るメリットを経営幹部が認めるようになったという状況があります。

文化的な面で言うと、日本は国民が考えている以上に欧米化が進んでいます。しかし一般的な日本人は、今の日本が昭和戦後期とどう違うのか、どのように発展し続けているのか、気づいていないことが多いのです。

私は研究を通じて、日本の人々が自らの言葉の選択に注意を払い、何気なく選んだ言葉がどんな結果を招きうるか考慮するよう、促していきたいと思います。多くの日本人が持つ自国のイメージに一致する、より自己認識に優れた日本社会の実現に寄与することを目指しています。

この一冊

『The Idea of English in Japan: Ideology and the Evolution of a Global Language』
(Philip Seargeant/著 Multilingual Matters)

私が言語と社会の関連性について研究を進めるきっかけとなった一冊です。著者は日本で長年にわたり英語を教えた経験から、日本の学校や英語教育の興味深い事例を紹介しています。日本人の英語観や英語の使い方の観察を通じて、日本の教育制度が内包するイデオロギーを探っています。

ギャヴィン・フルカワ

  • 外国語学部英語学科 
    准教授 

ハワイ大学ウェスト・オアフ校にて学士(人文科学)、ハワイ大学マノア校にて修士および博士(第二言語研究学)を取得。2018年より上智大学に勤務。英語、ハワイ・クレオール語、日本語に堪能な日系アメリカ人4世として、これらの言語コミュニティ間で起こる言語接触の状況について研究を多数行う。

英語学科

※この記事の内容は、2023年9月時点のものです

上智大学 Sophia University