祭りを通して、日本の文化や社会の変化を分析する

文化や宗教を研究テーマとしている総合人間科学部の芳賀学教授は、現在日本の祭りに注目しています。昔ながらの地域共同体が主催する祭りとは異なる、関心事で結びついた現代的な祭りとは?それらが生まれた背景とは?

社会学は、人間と社会に関する研究をする学問です。社会は人間関係の束で成り立っており、私たちは人間関係による影響をさまざまな形で受けています。過去の人たちが作った制度のなかで個人が作られ、その個人が他者と協働して新しい社会を作るという循環を繰り返す。社会学はそうした社会の状況や成り立ちを研究します。

研究テーマは多岐に渡りますが、私の専門は文化や宗教です。文化や宗教は、人間とは何かを知るためにとても重要です。人間は、他の動物とは違い、安全な場所と食べ物があり、繁殖ができれば満足というわけにはいきません。すべてを手に入れても不満なこともあれば、不足ばかりで一見大変そうに見えても、そこに意味を見出し、幸せを感じることもある。実に不思議な生き物です。私は、人間がそう感じる背景には、文化や宗教が密接にかかわっていると考えています。

現代的な祭りは、共通の関心事で自主的に人が集まる

現在、私が一番力を入れているのは「祭り」です。伝統的な日本の祭りというより、近年盛んになってきた現代的な祭りを主な研究対象としています。古来、日本の祭りは、地域に根差し、その土地に生きる人々が自分たちのために運営するものでした。地縁で結びついていたといえます。一方、近年、若者を中心に多くの人が熱中している祭りは、共通の関心事で自主的にチームを作り、全国の祭りに出向いていくという特徴があります。その結びつきは「関心縁」と言えるでしょう。

代表的なのは「よさこい祭り」。高知県発祥ですが、今や全国のさまざまな地域で行われています。盆踊りは曲も振付も決まっていますが、よさこい踊りは鳴子を持ち、指定の曲の一部を使ってさえいれば、あとは自由。ラップ調の曲を使うチームもあれば、フラを踊るチームもある。独創性が魅力です。

こうした祭りが増えた背景には社会の変化があります。現代社会では、一般的に人々の結びつきの中で関心縁の占める比率が以前よりも高まっていることに加え、ソーシャルネットワークで活動状況を拡散できるようになったことや、交通手段が発達し移動が容易になったことなども関係していると言えるでしょう。地方自治体が、町おこしをするために、こうした祭りを積極的に推進していることも、都市部ではない地域で広がっている大きな要因だと思います。

未来の世代のために、今の祭りの姿を詳細な記録に残す

研究は、フィールドワークがメインです。「真面目に、地道に、繰り返し」をモットーに、できるだけ祭りに行き、たくさんの人に話を聞くようにしています。

文化や宗教はとくに、そのコミュニティの内側に入り込むと当たり前で正しいものに見えてしまうので、研究においては冷静さや客観性の確保が不可欠です。しかしその一方で、熱中する人の気持ちに寄り添い、共感的に考えてみることも大切です。踊りに熱中する人が見ている風景や楽しさは、踊ってみないとわからない。だから私も可能な範囲で自ら参加しています。

ここ数年、コロナ禍で中止になった祭りがたくさんあります。関心縁で集まる祭りは一度途切れると復活が困難なようですが、その立て直しの過程も研究しています。今の時代の祭りがどのようなものであったか、未来の世代のために詳細な記録を残すこと。このことも私の役割だと思っています。

この一冊

『定本 真木悠介著作集Ⅰ 気流の鳴る音』
(真木悠介/著 岩波書店)

大学でどの学科に進むかを決める20歳頃に読み、社会学を研究するきっかけとなった本です。同じものを見ても、文化や宗教などの異なる社会的背景によって見方が変わる。物事の捉え方はひとつではないと教えてくれました。

芳賀 学

  • 総合人間科学部社会学科
    教授

東京大学文学部社会学科卒、同大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。修士(社会学)。東京学芸大学教育学部助手、上智大学文学部講師、同助教授などを経て、2006年より現職。

社会学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University