公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団の山中伸弥理事長の講演会がオンラインで開催されました

1月21日、上智大学と公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団の共催で、上智大学プロフェッショナル・スタディーズの特別講演会(スペシャルトーク)が開催され、同財団理事長で2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏による「再生医療の普及を目指して」と題したオンライン講演が行われました。

※講演の様子は、上智大学のYouTubeチャンネルでご覧いただけます。2021年7月末まで公開しています。

対談中の山中伸弥 京都大学iPS細胞研究財団理事長(左)と曄道佳明学長

講演会に先立ち、山中理事長と本学の曄道佳明学長との対談が行われました。お互い初対面でしたが、二人とも同い年でマラソンにも挑戦しているということで、和気藹々とした雰囲気で話が弾みました。

まず、曄道学長から、オンラインの環境が人間社会に与える影響についての問い掛けから始まりました。オンラインによる授業などでも、海外を含め遠方とつながりやすくなりましたが、それを経験として受容しうるかと問題提起がありました。

山中理事長は、米国にも研究拠点があり、毎月日米を往復していましたが、昨年2月以降は渡米することができなくなりました。しかし、Zoom等を使って、今までよりも話す機会が増えたと振り返っています。ただし、旧知の人との会話は違和感がないが、研究所に新しく入ってきた研究者とは一度も実際に会ったことがなく、会話は成り立つもののオンラインによるコミュニケーションに限界を感じると語りました。そして、それは大学でも同様で、すでに授業やサークル活動などキャンパスライフを経験している2年生以上の学生がオンラインで人間関係を維持していくのは容易である一方、今年度の新入生のように、対面による人間関係が構築されていない人々にはとっては影響が大きいと話しました。

さらに、山中理事長から、オンライン環境で留意すべき点として、オンラインではどうしても一方通行になりやすく、デジタル化された情報だけが行き交うだけになってしまうので、服装や顔の表情、身振り手振りなど、対面で行っている時以上の身体的表現をすることも大切なのではないかとの意見も披露されました。

次に、曄道学長から、日本の社会における科学の発展に対する認識や期待をどのように考えておられるかを山中理事長に聞きました。山中理事長は、国土も狭く、資源もあまりない日本にとっては、科学技術の発展は日本を支えていく大きな柱の一つであることは間違いなく、基礎研究と応用研究が、どちらも欠くことのできない車の両輪であるべきと語りました。そして、iPS細胞についての基礎研究と、iPS細胞を使った医療を患者に届けるという応用研究の両方を経験した立場から、「基礎研究と応用研究は、研究費を取り合うといった競い合うべきものではない。何もないところに種を蒔き、一生懸命水を撒いて育てるのが基礎研究であり、芽が出てきて育ってきたものをしっかりと最後まで育て上げるのが応用研究であるが、そもそもステップが違う。国によっては応用研究に注力するところあるが、日本という国としては、基礎も応用も両方に力を入れることが求められている」と話しました。さらに、基礎研究も最近は研究費が高騰してきているだけでなく、国際共同研究が主流になってきており、集団としての力を出せる能力が求められているが、日本はその点が弱いと感じていると指摘しました。

山中理事長は、さらに、日本の基礎研究力は世界の中でも健闘しているが、特に、臨床医学では世界のトップ10からは落ちてしまっているのが現状であり、昨今の新型コロナウイルスに対するワクチン開発の状況を見ていても、日本の存在感が出せていない。今後もパンデミックが起こる可能性はあるので、非常事態の中でもワクチン開発のような応用研究が、他国と同じペースで行える体制を作っておくべきである、と訴えました。

本対談も当初予定されていた直接の対面が叶わず、オンライン上で実施されたことから、新型コロナウイルス感染症の一日も早い終息を願う言葉を交わし、対談を終えました。


公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団について
国立大学法人京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の一部門が独立し、2020年4月に公益財団法人として活動を開始した。大学と産業界とをつなぐ橋渡し役として、再生医療用のiPS細胞の製造・保管・提供を行い、iPS細胞を用いた新しい医療の実用化を目指している。

上智大学 Sophia University