ジェンダーギャップ指数が著しく低い日本を変えるための政策とは?

法学部地球環境法学科
教授
三浦 まり

ジェンダーギャップの国際比較をしている、法学部の三浦まり教授。女性国会議員を増やすことの重要性やそのために有効なクオータ制など、日本が抱える政治分野のジェンダー格差の課題を解消する取り組みについて語ります。

私の専門は「ジェンダーと政治」で、主にジェンダーギャップ(男女格差)の現状やその解決策の国際比較をしています。日本はジェンダー平等を支える法律が非常に少ない国。選択的夫婦別姓制度がないのは世界で日本だけです。こうした状況を変えるために、研究を通じて日本の課題を明らかにし、ジェンダー平等に役立つ政策を提言しています。

とくに力を入れているのは、国会議員に女性を一定数割り当てるクオータ制の研究です。2024年に発表された日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位。ここまでランキングが低い原因の一つは国会議員をはじめとする政治分野において、女性の数が非常に少ないことにあります。2024年7月時点での女性国会議員は709人のうち116人とわずか16.3%にすぎません。衆議院だけを取ると、約1割と極めて低い割合となっています。

ジェンダーギャップの是正には法律の整備が必要ですが、その法律を策定する国会議員が男性ばかりというのは問題があります。つまり、早急に女性議員を増やす必要があるのです。クオータ制を導入した国では女性国会議員の数が増え、2020年時点でメキシコでは約50%、イギリス、フランスは30%を超え、韓国も20%近くになっています。日本でもクオータ制を含む、女性国会議員を増やすための政策が急務なのです。

政治分野における男女共同参画の推進法が実現

研究で重視しているのは、フィールドワークです。ジェンダー平等が進んでいる国に出向き、関係者に直接話を聞きます。男性中心の政治から脱却することが困難なのはどの国も同じ。困難をどう乗り越えたかを女性議員や議会関係者、アクティビストなどにヒアリングして、日本に紹介することはとても意味のあることです。

2018年にできた「政治分野における男女共同参画の推進法」は「衆議院、参議院、地方議会の選挙で男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指す」などを基本原則とした法律です。この法律は議員立法で実現したものですが、草案を作成した超党派の議員連携の有識者がアドバイザーを務めています。また、一般社団法人パリテ・アカデミーを設立し、若手女性の立候補を支援する活動も行っています。合宿で実践的な選挙戦略について学ぶ機会を提供しています。

若い世代とともに誰もが住みやすい社会の実現を

研究の面白さは、今ここにある困りごとをテーマにできる点です。ジェンダーギャップによって、生きづらい状況に置かれている人たちの声を聞くことが、モチベーションになっています。研究の成果が政策や法律の実現につながったときには、非常にやりがいを感じます。

今後の研究テーマとしては、「政治分野における暴力」を考えています。女性が選挙に出た場合、男性に比べて誹謗中傷や選挙妨害などのハラスメントを受けやすいことが分かっています。このことも女性が政治に参加しにくい要因の一つになっています。女性議員の多い国で、この点をどう解決しているのかを調査し、報告できたらと思います。

また、若い世代のジェンダー感覚は鋭く、授業でもなぜ女性の管理職は少ないのかと問われることがとても多くなりました。これからも若い世代との対話を重視し、誰もが住みやすい社会を作っていきたいと考えています。

この一冊

『からゆきさん 異国に売られた少女たち』
(森崎和江/著 朝日文庫)

戦時中、貧しい少女たちが海外にある娼館に売られていた実態を描いた作品です。日本人が海外進出すると必ず日本人男性向けの娼館が建てられていました。女性の性を搾取してもいいという考え方は、現代の性暴力と地続きにあります。この事実を若い世代にも知ってほしいと思います。

三浦 まり

  • 法学部地球環境法学科
    教授

慶応義塾大学法学部政治学科卒業、カリフォルニア大学バークレー校政治学研究科博士課程終了、Ph.D.(政治学)取得。東京大学社会科学研究所機関研究員を経て、2003年より上智大学法学部助教授、2010年より現職。

地球環境法学科

※この記事の内容は、2024年7月時点のものです

上智大学 Sophia University