ロシア語を学ぶことによってロシアの思想・信条を内在的に理解する

外国語学部ロシア語学科
教授 
秋山 真一

ロシア語文法を研究している外国語学部の秋山真一教授。日常使われているロシア語を、データベースを使いながら研究することで、ロシア人の思想・信条を理解できるようになり、ビジネスの場でも粘り強く交渉することができると語ります。

私は大学に入って一般言語学の授業を取りました。一般言語学は、日本語やロシア語など、特定の言語に限定せず、言語全般を通じて言葉の特徴を探る学問です。言語学を学ぶうちにロシア語で言葉の特徴を研究したら楽しいのではないかと思うようになり、それ以来ロシア語文法の研究を続けています。

ロシア語は、言語系統的には英語と同じインド=ヨーロッパ語族に属していますが、英語と違うところもかなりあり、むしろ日本語に近い現象もあります。例えば、「私には妹がいます。」と伝えるとき、英語では”I have a sister.”となりますが、ロシア語も日本語も所有を表すhave動詞は使わずに「いる」という存在を表すbe動詞を用います。

データベースを使いながら日常使われているロシア語を研究

言葉の調査をするとき、蓄積したデータを統計学的な手法で処理して結論を出します。具体的には、テキストや発話を大規模に集めた言語資料のデータベースであるコーパスを使ってロシア語の文法を研究します。

ロシア語の文法には不思議なルールがたくさんあります。例えば、「100人の学生が来ました」という文で、「100人の学生」という主語が単数なのか複数なのかという問題があります。実は「100人の学生」は単数として扱われる可能性の方が高くなります。

ところが、「2人」や「3人」だと複数として扱われることのほうが多くなります。普通に考えれば、100人の方が多くて2人の方が少ないと思いますが、「2人」は複数と見なされることが多く、「100人」だと単数と見なされることが多いのです。

これは、100人になると個性がなくなり、「100人の学生」という塊の単数と捉えられるからです。一方、2人、3人は個性があって、個別にいるという点が注目されて複数になります。このような日常の言葉の使い方を、コーパスを使って研究しています。

ロシア人の思想・信条を理解すれば、粘り強く交渉ができる

ロシア語研究は、ただ単に言語を理解するだけではなく、ロシア人の思想・信条を理解するのに役立ちます。文学や文化、ロシア正教という側面から、ロシア人はどのように考える民族なのか、ひいてはお互いに非常に近い民族だと言われていたウクライナ人と比べてどこが違うのかを考えるのに役立ちます。

こうした理解は、ビジネスの交渉においても重要になってきます。飛び交う言葉だけを聞いているとまとまりそうにない交渉でも、その言葉の背景にどんなものがあるのか、ロシア人はどんなものにこだわるのかを想像することで、諦めずに進めることができるからです。いったん引き下がりながらも、先方がどうしても譲歩できない点を分析し、粘り強く調整すれば次にまたチャンスは必ず生まれてきます。ロシア人の気質を理解していれば、早々に諦める必要はなく、相手に対して過剰な期待もしないですみます。

また、語学学習においても、ロシア語を学ぶことはロシア周辺のスラブ語派の言葉を学ぶのに役立ちます。昨今の情勢を踏まえ、ウクライナの勉強をしたいという学生が非常に増えているだけでなく、いわゆる旧東ヨーロッパと呼ばれていたポーランドやチェコなどの言語にも学生が目を向けるようになりました。ロシア語と同じスラブ語派の言語を学ぶことはその周辺諸国の思想・信条を理解することにもつながります。

この一冊

『ことばと文化』
(鈴木孝夫/著 岩波新書))

日本人である言語学者が日本語を、トルコ語、フランス語、ロシア語などの外国語と比較して説明しています。そのことによって、自分の国の言葉である日本語を、外国語を通じて再発見へと導いてくれる本です。

秋山 真一

  • 外国語学部ロシア語学科
    教授 

上智大学外国語学部ロシア語学科卒、(株)テレビ朝日に勤務したのち、東京外国語大学地域文化研究科博士前期課程・同後期課程修了。博士(学術)。上智大学外国語学部ロシア語学科助教、同准教授を経て、2022年より現職。

ロシア語学科

※この記事の内容は、2022年11月時点のものです

上智大学 Sophia University