国際協力は途上国の社会問題を解決しているのか。その検証を、宇宙から

経済学部経済学科 
准教授 
倉田 正充

発展途上国における社会問題の解決を目指す開発経済学を専門とする、経済学部の倉田正充准教授。途上国の貧困の実態把握や、国際協力の効果の検証に、人工衛星のデータを使う新しい試みを実践しています。

私の専門は開発経済学です。と言っても、単に金銭的な貧困問題だけを扱うわけではありません。たとえお金があっても、近くに病院や学校がなければ適切な医療や教育サービスを受けることができません。農産物がたくさんとれても、整備された道路がなければ売りに行くこともできません。問題点や不足しているものを事実に基づいて測定することが、国際協力には欠かせないのです。

人工衛星のデータで大気汚染による健康被害の実態を精緻に捉える

今、私が力を入れているのが、途上国の問題を宇宙から捉える研究です。もともと途上国での調査は、家を1軒1軒訪ね歩いて話を聞き、それを調査用紙に記入していく地道なもので、膨大な時間と手間が必要でした。しかし人工衛星のデータを使えば、途上国の状況を低コストかつ高い精度で把握することが可能です。その一つの例が、大気汚染による健康問題の分析です。

世界保健機構(WHO)の推計によると、大気汚染を原因とする死者数は世界で年間700万人にも及ぶと言われています。とくに深刻な国として知られるバングラデシュでの分析で、私は二種類のデータを用いました。一つは人工衛星による大気汚染のデータで、1キロメートル四方の精度で長期間にわたる汚染の状況を確認できます。もう一つはバングラデシュ全域で行われた乳幼児の健康状態の世帯調査のデータです。各世帯の大まかな位置場所が確認できるため、この二種類のデータを組み合わせると、誰がどこで、どの程度大気汚染にさらされ、それが健康状態にどんな影響を与えたかがわかるのです。

ほかにも、人工衛星から得られるデータはさまざまな社会問題を浮き彫りにします。例えば地上の灯りの量を測る夜間光のデータは、地域間の経済格差の状況を伝えてくれます。また農作物の不作や洪水などによる自然災害、森林伐採なども確認できます。

科学的に事後評価をし、新しい国際協力事業の方向性を提言したい

国際協力事業の成果を検証する意味でも、人工衛星は役に立っています。例えば日本は、インドの森林保全に総額3000億円近くもの融資をしてきました。人工衛星の森林分布データで調べたところ、日本が支援した地域ほど森林が保全されていることがわかりました。インドの乾燥地帯での灌漑事業への支援では、水路の500メートル圏内で農作物の収穫量が増加したことが人工衛星から確認できています。

一方で、思ったほどの成果が得られなかった事業もあります。でもそれは単なる失敗ではなく、そこから教訓を導き出し、現地の人々に本当に役立つ国際協力のあり方を考え直すためのステップになります。私自身、長く途上国で国際協力事業にかかわってきました。現在も研究と実務の両輪で仕事をしています。その過程で実感するのは、どんなに人工衛星のデータが優れていても、現地調査をしなければわからない情報もあるということです。宇宙と地上、両方のデータを用いて精度の高い分析をして、ゆくゆくは途上国の有効な政策に結びつくような提言ができればと考えています。

この一冊

『Dr. STONE』
(稲垣理一郎/原作 Boichi/作画 集英社)

ある日突然人類が石化し、それから3700年後の未来。生身の体に戻れた高校生が、自分たちの力で科学技術を取り戻してサバイバルしていく物語です。小学生の息子と夢中で読みましたが、開発経済学のエッセンスも盛り込まれています。

倉田 正充

  • 経済学部経済学科
    准教授

東京大学農学部農業・資源経済学専修卒、同大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻修了。博士(農学)。開発コンサルティング会社や国際協力機構(JICA)での勤務を経て、2015年に上智大学経済学部に助教として着任、2019年より現職。

経済学科

※この記事の内容は、2022年9月時点のものです

上智大学 Sophia University