事業再生の過程で多様な利害関係人が適切に参画できる手続的枠組みを探る

民事手続法の分野で、とくに倒産した個人や企業の清算や再生の手続を規律する倒産法の研究をしている法学部の田頭章一教授。債務者の倒産という極限状況の中で、さまざまな利害関係人が自ら手続に参加することの重要性、日本とは異なる海外の倒産手続の現状などについて語ります。

民事手続法は、人と人、会社と人など、私人間の紛争を解決するための手続を研究する法分野です。私は、この民事手続法のうち、倒産法を主たる研究分野にしています。倒産法は、経済的な破綻、つまり倒産に至った企業または個人の財産を清算したりその事業を再生したりする手続であり、債権者など多様な利害関係人の利害を調整することが重要な役割になります。

清算型の処理手続では財産を清算した後に会社はなくなります。これに対して再生型では裁判所の監督のもと、企業は債権者への弁済を進めながら事業を継続し、経済的再生をはかることができます。日本では、バブル崩壊による長期の不況によって企業の倒産件数が増加したことをきっかけに、1990年代頃から再生型の手続が改めて注目されることになりました。再生手続を通じて企業または事業を生き返らせ、経済的・社会的に価値ある事業を維持しようという考えが注目されるようになったのです。

多様な利害関係人の再生手続への参画のあり方

ただし、事業再生手続も万能ではありません。債務者と実質的な交渉ができるのは倒産した企業に対して大口の債権を持つ金融機関などで、他の債権者、たとえば不法行為債権者などがどのように手続に参加していくのか明確な仕組みがあるわけではありません。再生手続では、迅速な手続の進行は重要なことですが、それによって関係者の納得が犠牲になるとすれば、とくに法的な事業再生手続では問題が残ります。

事業再生手続分野で世界をリードしているアメリカでは、一般に、「自ら再生計画作成プロセスに参加する」という債権者等利害関係人の意識が強く、専門家の助けを借りながら積極的に手続参加する仕組みがある程度用意されています。一方、日本では、手続参加の意欲はあってもどのように参加すればよいかわからず、または「裁判所や中立的な専門家に任せておけば大丈夫だろう」という発想から、利害関係人の手続参加は、活発とはいえない状況です。こうした現状を見直して、多数かつ多様な利害関係人がそれぞれの立場で適切に手続に参画できる手続枠組みのあり方を探り、提案したいと考えています。

研究は複数の国や地域の制度と日本の制度を比較することにより、日本の倒産法制や実務の問題点を検討するというスタイルが中心です。各国倒産法の基本思想や手続の違いを分析することで、日本の法制の課題や参考にすべき点が明らかになります。

現地の裁判所や弁護士に直接、話を聞きに行くこともあります。それは現地に行って得られるものが多くあるからです。例えばアメリカでは弁護士から、「取引債権者が破綻企業の再生のための交渉に積極的に参加するメリットとして、破綻企業の内部情報を自分の事業に利用できるということもあるのだよ」と、意外な事実を聞いたことがありました。こうした予想外の成果が得られたときに、研究の面白さを実感します。

倒産法を含む民事手続法の魅力を学生に知ってほしい

現在、今日紹介した倒産法の研究に加えて、会社訴訟の研究などに取り組んでいます。民事手続法全般の魅力としては、研究の幅が広いことがあげられます。民事紛争解決は不動産の明渡訴訟など狭い意味の民事訴訟だけでなく、家事事件紛争の解決手続など広い範囲に及ぶからです。このため、興味を持ったフィールドに研究テーマを広げていくことができます。

学生にとって民事手続法は退屈でとっつきにくい分野ととられることも多いのですが、実は民事紛争は身近な存在です。だからこそ、この分野の学びが役に立つことを知ってもらいたいですね。

この一冊

『権利のための闘争』
(イェーリング/著 村上淳一/訳 岩波文庫)

ドイツの法哲学者が19世紀後半に発表した古典です。「権利のために闘うことは国家・社会に対する義務である」というメッセージに強く刺激を受けました。修士課程のときに読み、研究者として法律の運用面を大切にすることを考えるきっかけになりました。

田頭 章一

  • 法学部法律学科
    教授

熊本大学法学部卒、神戸大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(法学)。岡山大学法学部教授などを経て、2001年より上智大学教授、2023年度より法学部長。

法律学科

※この記事の内容は、2023年9月時点のものです

上智大学 Sophia University