「電気抵抗ゼロ」だからできること。超伝導の研究成果を社会に還元したい

理工学部の高尾智明教授の研究対象は、MRIやリニアモーターカーに使われる超伝導電磁石。「電気抵抗ゼロ」の物質で電磁石を作ることの意義や次世代エネルギー技術への貢献の可能性、今後の課題について語っています。

超伝導とは、特定の金属や合金などをマイナス200度以下の極低温に冷却すると、ある温度に達した時点で突然電気抵抗がゼロになる現象のことです。元素の中では水銀、鉛、ニオブなどの金属がこの性質を持つ超伝導物質に当たります。

家電の電気コードに使用される銅は超伝導物質ではないので、いくら冷却しても電気抵抗はゼロになりません。銅線に電気を流すと熱くなるのは、そこに電気抵抗がある、すなわち銅の中にある自由電子の流れが格子振動の影響を受けているからです。一方、超伝導状態の物質では電子二つのペアで考えて、格子の影響で一つ目の電子は減速しますが、二つ目の電子は加速するためペア全体では損得ゼロになり、大きな電気を流しても熱くなりません。この特性に着目して作られたのが、超伝導物質の電線を用いた超伝導電磁石です。電磁石の強さは電流の大きさに比例するので、たくさんの電気を流せる超伝導物質でコイルを作れば、それだけ強力な磁石が作れるということ。リニアモーターカーが地面から浮いているのも超伝導電磁石の力です。

熱を効率よく分散し、超伝導状態を保つ方法を考える

私が現在取り組んでいるのは、何らかの不具合で超伝導電磁石の温度が上がってしまった場合に、生じた熱を素早く周囲に分散させることにより温度を下げて、超伝導の状態を安定的に維持する方法の研究です。具体的には、熱伝導の良い素材を電磁石の中に挟むことで温度上昇を防ぐわけですが、その素材をどこに、どのような形状にして入れれば効率よく冷却効果を得られるのかが考えどころ。先日、アメリカで成果発表した際にも「ほかの研究機関では見ない独自のテーマでとても興味深い」と言われました。

超伝導の研究は、私が大学院生だった1980年代の後半、比較的高温でも超伝導状態になる物質が次々と発見されたことで、一時期大きな盛り上がりを見せました。今はそこから一歩進み、これまでの研究で得られた成果を社会に還元する段階、いわば研究と社会の間に橋を架ける時期に来ています。

電動航空機や核融合への貢献も期待。自由な発想で広がる可能性

超伝導電磁石の強い磁力を利用して体の断面を画像化するMRIのように、超伝導の研究から得られた知見が世の中の役に立つ事例は、今後数十年の間にいくつも出てくることでしょう。例えば、航空機のジェットエンジンの代わりに超伝導の電気モーターを使う研究も進められており、輸送分野での二酸化炭素の排出削減に有望と思われます。また、次世代の発電技術「核融合発電」もあります。実用化はまだ先になりますが、核融合を起こすためにプラズマを超伝導電磁石の力で閉じ込める手法に大きな期待が寄せられています。

社会への還元方法を探るなかでは、超伝導物質の質を高める、開発コストを下げるといった課題にも、一つひとつ丁寧に向き合わなければなりません。世の中で使える超伝導電磁石を完成させるには、モノづくりをするメーカーと専門知識を持つ研究者のコラボレーションも必要です。今後も研究者としての経験はもちろん、他の機関との共同研究や異業種の方たちとの意見交換から得た新しい発想、自由な発想を、研究のなかに生かしていきたいと思っています。

この一冊

『目にやさしい大活字 図解でウンチク 超伝導の謎を解く』
(村上雅人/著 シーアンドアール研究所)

この本の内容が8割理解できて、かつ人に説明できるようになれば、超伝導の基礎知識としては十分。何か新しいことに興味を持ったときは、こういった一般向けの教養本を読むことから始めるとよいので研究室の学生にも勧めています。

高尾 智明

  • 理工学部機能創造理工学科 
    教授

横浜国立大学工学部電気工学科卒業、同大学院工学研究科電子情報工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。上智大学理工学部電気・電子工学科専任講師などを経て、2003年より現職。

機能創造理工学科

※この記事の内容は、2022年9月時点のものです

上智大学 Sophia University