半導体の製造には欠かせないプラズマの性質を、ミクロなレベルで探る

自然界や物質を構成する原子や分子を精密に測定し、その特性を明らかにしている理工学部の星野正光教授。企業とも共同研究を行っているプラズマから、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素まで、見えないものを探るおもしろさとは?

私たちの身の回りにある自然や物質は、原子や分子が集まってできています。例えば空気は目に見えませんが、窒素や酸素で構成されています。「原子物理」という研究分野がこうした構造をミクロなレベルで明らかにしてきました。

一方、科学技術によって工業的に作られた新しい分子については、よくわかっていないことがまだたくさんあります。私の研究はこうした新しい分子の特徴を原子物理の手法を使って調べること。現在、スマホにも使われる半導体の製造に必要な薄膜形成や、基板表面を削る技術に欠かせない、気体分子のプラズマを対象として企業と共同研究もしています。

固体は熱などのエネルギーが加わると液体になり、さらに気体へ変化します。これをさらに続けると気体分子はバラバラになり原子に戻ります。さらにエネルギーが加わると原子から一部の電子が外に飛び出す電離という現象が起こり、その電子が他の原子と衝突して原子も壊れた状態になります。この状態をプラズマと言います。電子の衝突がプラズマを作るきっかけとも言えます。

雷やオーロラは、自然界で発生する身近なプラズマ

プラズマは高いエネルギーを出す時に光を放ちます。輝いて見えるのはこのためで、身近な例として、上空で電子が分子と衝突し電離が起こって発生する雷があります。太陽から飛来した電子が空気中の酸素や窒素と衝突して発生するオーロラもその一つです。

半導体製造に利用しているのは人工的に作ったプラズマです。これを材料に当てて製品の基板を作ります。私の研究はプラズマをより効率よく作り出すことができる分子やその特性を見つけること。そのために、プラズマの性質をミクロなレベルで徹底的に探っています。研究が進めば、将来的には製造コストを下げたり、より精度の高いプラズマモデルを作ったりすることが可能になると考えています。

研究では電子分光器という実験装置をメインに使っています。真空中に対象となる気体分子を入れ、ここに電子を発生させ衝突させます。普段、電子は原子と原子を結びつける接着剤のような役割で分子の中に閉じ込められていますが、外から別の電子が当たることで動き出します。こうした反応を検出器とコンピューターでとらえることで、分子の中で起こっていることが明らかになるのです。

二酸化炭素が温められるときに、何が起こっているかを見たい

ただし、真空中で分子は大量に存在しているわけではないため、電子が衝突する確率は極めて低く研究データが得られるまでに数年くらいかかることも珍しくありません。また、装置は研究テーマごとに研究者が作らなければならないことが多く、この期間も含めるとさらに時間がかかります。根気のいる作業ですが、企業やさまざまな分野の方に期待していただけることにやりがいを感じています。

すでに構造や性質が明らかになっているありふれた分子でも、研究テーマは山のようにあります。二酸化炭素もその一つ。地球温暖化の大きな要因ともいわれていますが、ミクロなレベルでどのような働きをしているかはまだよく分かっていない点も多く、現在、その働きをとらえる研究も始めたところです。分子の性質を解き明かすことは、地球環境を知る手がかりになるかもしれません。この研究の面白さを、若い世代にもっと伝えていけたらと思います。

この一冊

『量子力学の解釈問題』
(コリン・ブルース/ 著、 和田純夫/訳 講談社)

大学生になって量子力学を学び始めてから、初めて読んだ本です。量子力学では見えない世界で起こる現象を、さまざまな解釈から説明をしていくある意味、不思議な学問です。この本をきっかけにミクロの世界に魅了されました。

星野 正光

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授 

上智大学理工学部物理学科卒、同研究科博士前期、後期課程修了。博士(理学)。理化学研究所基礎科学特別研究員、本学理工学部助教、准教授を経て、2019年より現職。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2022年11月時点のものです

上智大学 Sophia University