目指すのは、世界中の看護学生が学び合って成長するオンライン授業

看護師、助産師、保健師などの資格を持ち、開発途上国の保健医療人材育成に携わり続けてきた、看護学科の吉野八重准教授。現在は海外大学と協働するオンライン教育を実践しながら、保健医療人材育成の手法を研究中です。

大学在学中に海外留学を目指す学生は少なくありませんが、看護学科は実習や国家資格試験の準備などの過密スケジュールで、実現が難しい傾向にあります。医療界のグローバル化は急激に進み、看護師の就労場所は地球全体に拡大し、国内の外国人患者への医療でも、コミュニケーション力や異文化理解が求められています。

文部科学省が推進する国際オンライン協働学習「COIL(Collaborative Online International Learning)」プログラムで、学生にグローバルな視点と異文化能力の獲得機会を提供することが、私の研究テーマです。

ディスカッションのなかで見えてくる日本との違い、そして共通点

現在はアメリカの6つの大学とモンゴル、タイの大学との合同オンライン授業を、1年間を通して実施しています。3年次の必修科目ではカリフォルニア大学ロサンゼルス校の先生からオンライン授業で「薬物依存症」、「経済と健康格差」といった最新トピックスを学びます。英語が不得意な学生のために通訳も配置しています。

選択科目では、通訳なしでアメリカの大学の通常授業をアメリカ人学生と共にリアルタイムで受講します。膨大な事前課題や濃密な討議は、バーチャルな留学体験そのもので、学生にも好評です。

授業計画は半年がかりで海外の先生と共同で立案し、事前課題の英語論文6本を精選して日米両国の保健医療システムの違いを鑑みたケーススタディを作ります。日米学生混合ブレイクアウト・セッションで患者の症例を多面的に理解し、どのような看護を展開すればよいかを討議し合い、発表します。

同じ職業の同世代が世界でつながり、将来的に支え合う関係に

相手国との時差やカリキュラムとの調整など課題もありますが、2022年秋学期にはスペインのイエズス会系大学ともオンライン授業を開始するなど、グローバル教育の新たな可能性として手応えを感じています。

学生たちはオンライン授業を通して、アメリカの医療現場の人種差別や医療アクセスの格差に愕然とし、日本の医療や看護の優れた部分や課題に気が付きます。途上国の大学との授業では、自国文化への誇り、新しい知識の習得に対するハングリー精神に刺激を受ける学生もいます。

自国の発展の度合いにかかわらず、共に学び、影響し合うことがこの授業の醍醐味です。授業後SNSで交流を継続する学生もいます。同じ目標を持つ者同士が世界を舞台に繋がるための土台を作ること、それが最終ゴールだと感じています。

この一冊

『NO TIME TO LOSE エボラとエイズと国際政治』
(ピーター・ピオット/著 宮田一雄+大村朋子+樽井正義/訳 慶應義塾大学出版会)

2013年に第2回野口英世アフリカ賞を受賞したピオット博士の回想録。1970年代にはエボラ出血熱、80年代にはエイズ対策に身を投じ、常に弱者の側に立っていた方です。実際にお会いしたのですがユーモアたっぷりの素敵な方でした。

吉野 八重

  • 総合人間科学部看護学科
    准教授

聖路加看護大学卒、ロンドン大学公衆衛生熱帯医学院修士課程修了、北里大学医療系研究科修了、医学博士。北里大学看護学部准教授を経て、2019年4月より現職。ピープルズホープジャパン理事。モンゴル看護協会監事。

看護学科

※この記事の内容は、2022年9月時点のものです

上智大学 Sophia University