国家とビジネスの関係性から読み解く、遠い隣国ロシアの今

ソ連崩壊から約30年。経済制度が激変するなかで大企業はどのように立ち回り、ロシアの政治に影響を与えてきたのでしょう。現代ロシア企業を研究する外国語学部の安達祐子教授が、ロシアについて学ぶ意義を語ります。

私の専門は、現代ロシア経済です。なかでも石油やガスをはじめとした天然資源を扱う大企業を研究対象にしています。

1991年にソ連が崩壊し、ロシアの企業は社会主義システムから資本主義経済への大転換を迫られました。90年代にロシアは経済の大混乱期を迎えますが、2000年代のプーチン政権下では著しい経済成長を遂げています。大企業はどんな役割を果たしたのか、政治と企業はどう関わってきたのか、私はそこに着目して研究を進めています。

ロシア企業の成長に欠かせない国家とのつながり

現代ロシア企業の特徴の一つが、国家との深い関係にあります。オリガルヒという政商の存在を耳にしたことがあるでしょうか。ソ連崩壊の混乱に乗じて、政権と癒着して莫大な富を築いた新興財閥を指します。エリツィン政権時代に力をつけたものの、プーチン政権下では力を削がれたオリガルヒもいますが、現在も国家との公式・非公式の結びつきの中で大企業を管理しています。彼らの動きを追うことで、いかにロシアの政治と経済が持ちつ持たれつの関係であるかが分かります。

また、国の影響力の強い大企業が市場を支配しているということも大きな特徴です。石油やガスなどの天然資源を扱う大企業には、国営企業が多いのですが「国家コーポレーション」と呼ばれる特殊法人の設立もあります。多くは軍需産業や原子力などの戦略的大企業であり、しかもそのトップには、プーチン大統領の元同僚など、息のかかった人たちが就任しているのです。

ソ連崩壊で誕生した多くの民間企業は戦略的分野で徐々に力を弱め、企業における国家の影響力が強大になっているのがロシアの現状と言えます。

世界の中のロシアの立ち位置が変化する今、さらに理解を深めたい

資源の少ない日本にとって、ロシアの天然資源は非常に魅力的です。資源分野のみならず、たとえばIT分野でもロシアには優秀な人材が豊富です。市場経済化をすすめるロシアにおいて、ビジネスの世界で協力できると考える日本の企業人は多くいました。しかし長引くプーチン政権下で、ビジネス環境が不安定になり、ロシアのビジネスが理解しにくく敬遠する企業は少なくないようです。2022年2月の侵攻は追いうちをかけました。

日本において、企業は透明性が高いことが重要です。風通しのよさは株式会社にとってあるべき姿と言えるでしょう。しかしロシアの企業は違う場合があります。不透明で理解しにくく、何が起きているか見えにくい。私は研究を通して、ロシアの不可解な部分を明らかにしていくことに面白さを感じています。

しかし、コロナ禍とウクライナ侵攻による戦禍により、ロシアのビジネスは混沌としています。世界各国の経済制裁もじわじわと影響をもたらしています。いま、世界の中のロシアの立ち位置はあきらかに変化しています。このような時代だからこそ、ロシアの情報を逐一キャッチし、変化を見逃さないようにしなくてはいけません。隣国について理解を深めることは、日本の経済にとっても有意義であることは間違いないはずですから。

この一冊

『ハックルベリー・フィンの冒けん』
(マーク・トウェイン/著 柴田元幸/訳 研究社)

子ども向けと思われがちですが、高校生以上の方に薦めたい本です。ハックが従来の規範に向き合いつつ、自分なりに正しさとは何かを考え、信念を持って行動する姿に人生のヒントが隠されています。柴田元幸さんの邦訳も魅力的です。

安達 祐子

  • 外国語学部ロシア語学科
    教授 

上智大学外国語学部卒、ジョンズホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)修士課程修了、国際通貨基金(IMF)勤務ののち、ロンドン大学大学院で博士課程修了(Ph.D)。現在は、上智大学外国語学部・大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。

ロシア語学科

※この記事の内容は、2022年11月時点のものです

上智大学 Sophia University