人間の心理と経済の関係を探り、日本が元気になる方法を考える

経済学部経済学科
教授
川西 諭

行動経済学を専門にしている経済学部の川西諭教授。人間の心理や行動から、経済をよくするための手法を研究しています。心理学が働き方に与える影響や、コミュニティにおける人々の結びつきと経済の関わりなどについて、語ります。

景気が悪いからと、政府が需要を喚起する経済政策を行っても、思い通りにはなりません。それは経済を動かしているのが人間だからです。私の専門である行動経済学はこうした人間の心理と経済の関係を探り、そこから、経済をよくする方法を考える学問です。

私が行動経済学に興味持つキッカケは、後にノーベル経済学賞を受賞することになるロバートシラーの株式のバブルと市場参加者の心理を検証した研究との出会いです。日本のバブル景気時代は私の中学~高校時代に重なりますが、日本中がバブルに浮かれる中、仕事に追われ、休みなく働く父の姿などから、社会の異変のようなものを感じていました。あの時期の社会や経済への関心が、今の研究の原点です。

日本は労働者1人あたり、あるいは労働1時間あたりでどれだけ成果を生み出したかを示す労働生産性が主要国の中でも低水準です。このことがバブル後、現在まで日本の景気が上向かない原因の一つといわれています。一般的な経済学では、労働生産性を決定する理由として、基礎となる学力の低下や労働者が自身の能力の開発に意欲的でないことが挙げられていますが、まさにこの点をどう変えていけるかが現在の日本経済の課題です。

成功者に共通する「やり抜く力」と「成長志向」

これに関連して私は、心理学の新しい考え方である、「やり抜く力」に注目してきました。学業やスポーツ、ビジネスなどで成功する人はやり抜く力を持っており、この力は生まれつきでなく、後天的に獲得できること、獲得できる人とそうでない人に、物事を捉える時の思考の癖であるマインドセットの違いがあることをアメリカの心理学者たちが明らかにしたのです。

例えば、「能力は生まれつきのものであり、不変である」と考える固定思考と、「努力により向上する」という成長志向があります。このうち固定思考の人はあきらめが早く、自己肯定感も低くなりやすい。これに対して成長志向の人は困難にあっても、立ち向かい、能力を伸ばせることが心理実験によってわかっています。

これを日本にあてはめてみると、景気が上向かない理由が見えくるでしょう。経済は新たなビジネスにチャレンジする人たちが生まれなければ、活性化しません。しかし、日本で起業する若者は、他国に比べ、まだまだ少ない。やりたいことがあっても踏み切れなかったり、一度失敗したら次はないと思ってしまったりする人が多いためではないでしょうか。まずはこうしたマインドを変えるために、新たなことにチャレンジしやすい環境を社会が作っていくことが重要だと思います。

周囲の人との連携が強い地域ほど、経済活動が活発

また、日本はOECDの中でも社会的孤立者の割合がトップですが、アメリカの研究では周囲の人々とのつながりがあり、信頼関係が良好な地域ほど、経済活動も活発で景気がいいことが明らかになっています。そこで私はNPO法人などを対象に、孤立を防ぎ、よりよいコミュニティ形成の仕組みを考える研究もしています。

私の研究目的は、「日本の社会を元気にしたい」、この一点に尽きます。そして日本の未来を担う若者に勇気と希望を与えたい。研究や授業を通じてできるだけ多くの人にその知見を届けられたらと思っています。

この一冊

『マインドセット やればできる!の研究』
(キャロル・S・ドゥエック/ 著、 今西 康子/訳 草思社))

能力や才能は生まれつきではなく、考え方の違いであることを20年間の調査で実証した、ポジティブ心理学の本です。成長志向が身に付くと、常に前向きになれるだけでなく、自分を客観視できる。怒りのコントロールにも役立つので、ぜひ、高校生に読んでほしいですね。

川西 諭

  • 経済学部経済学科
    教授

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒、東京大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学2000年)。1999年より上智大学経済学部経済学科講師、准教授などを経て、2009年より現職。

経済学科

※この記事の内容は、2022年10月時点のものです

上智大学 Sophia University