国民の生活をよりよいものにするための、法のあり方を考える

法学部法律学科
教授 
上田 健介

憲法に関連する法律やルールのうち、行政分野を中心に研究を行っている法学部の上田健介教授。日本の政治をよくするために法のあり方を考えることの重要性や、現在の問題点を明らかにするための研究手法、研究のやりがいなどについて語ります。

みなさんが憲法と聞いて思い浮かべるのは、日本国憲法の条文ではないでしょうか。国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の3大原則、と言う人も多いかもしれません。しかし、あまり知られていませんが、実はこの条文や原則を実現するためのさまざまな法律やルールがたくさん存在しています。内閣法や国会法なども、その一つ。私は、とくに行政に関わるものについて、憲法典だけでなく、こうした憲法典の周囲にある法律を含めて、よりよい法のあり方を研究しています。

研究のきっかけは1990年代、官僚主導の政治に批判が起こり、政治・行政改革を進めようという機運が高まっていたときでした。官僚が国家の政策決定に大きな影響力を持っているとすれば、そもそも日本の法律は官僚が動きやすく、政治家が主導権を取りにくいルールになっているのではないかと考えるようになりました。

同じ内閣制度を持つイギリスの法律と比較してみたところ、日本と違い、政治家の主導権が大きいことが分かりました。そこで私は、首相や大臣が動きやすいルール作りを提案してきたのです。

「ねじれ国会」は国民のためになっているのか、という疑問

官僚主導から政治主導にシフトしてきたと言われている現在は、内閣をコントロールする国会のあり方にも注目しています。国会、とくに野党会派がしっかりと内閣にその政治運営について国民から見えるように説明させチェックをすることが大切です。しかし、例えば、野党会派が参議院の過半数の議席を占める場合、いわゆる「ねじれ国会」となり、衆議院で可決された法律を参議院の野党が否決して政治が停滞したことがありました。それは果たして国民のためになるのか。ならないとすれば、法のどの部分をどう変えればうまくいくのかといったことも考えています。

憲法の条文を改正するには、最終的に国民投票などが必要になりますが、その周囲にある法律やルールは、憲法の枠内であれば通常の法律改正の手続きで変えることができます。少しずつでも変えることで、国民の意見がより正確に反映されるようになれば、私たちの生活がよりよいものになるはず。これが私の最大の研究目的でもあり、研究を続けるモチベーションになっています。

他国の法と比較することで問題点を可視化する

法律やルールを変えるには、国民の代表である政治家の力が必要です。まずは、彼らにその必要性を知ってもらわなければなりません。そのためにもできるだけ研究論文を出し、見てもらえるようにしています。研究手法は前述のようにイギリスやドイツとの比較です。行政の仕組みとして参考にする部分の多いこれらの国の法律と、日本の法律を比べることで、その違いと課題を可視化できます。研究内容や提言については、機会があれば政治家に直接、お話しすることもあります。

この研究を続けているのは、おそらく、私が人間や社会が好きだからでしょう。国会も内閣も私たち人間が作った組織であり、そこで政治という営みが行われている。政治は私たちの生活をよくも悪くもしますが、人々の生活や人権が脅かされないようになっているのは法のおかげです。だからこそ、この生活が守られるように、あわよくば少しでもよくなるように、法律の研究者という第三者の立場から、これからもできることを考え続け、声をあげていきたいと思います。

この一冊

『第一阿房列車』
(内田 百聞/ 著 福武文庫)

名文家で知られる著者が1950年代に青森から鹿児島まで、あてもなく鉄道に乗り日本各地を飄々と往来した様子を執筆した本です。鉄道が趣味だった私は、高校生の頃なかなか旅に行けず、悶々としていました。この本を読むことで楽しく幸せな気分に浸れたことを思い出します。

上田 健介

  • 法学部法律学科
    教授 

京都大学法学部卒、同大学院法学研究科博士後期課程中途退学。博士(法学)。奈良産業大学専任講師、近畿大学法学部准教授、同大学法科大学院教授などを経て、2022年4月より現職。

法律学科

※この記事の内容は、2022年11月時点のものです

上智大学 Sophia University