モノのインターネットと言われるIoTで使用されている、無線センサネットワークに関する研究に取り組む理工学部の林等教授。モノから情報を入出力するために欠かせないマイクロ波回路や電子回路を設計するおもしろさについて、語ります。
IoTとはモノをインターネットに接続する技術のこと。センサをはじめカメラや無線通信を搭載したモノをインターネットとつなぎ、相互に情報のやりとりしながら、遠隔のものを把握したり、制御したりすることができます。
身近なIoTの代表とも言える「スマートメーター」は、各家庭やオフィスの電気使用量を自動計測し、通信機能を使ってそのデータを電力会社のサーバーに送信するため、電気メーターの検針を不要にしました。このほか、スマートフォンなどで外出先からテレビやエアコンなどを操作できるスマート家電などもあります。私はこのIoTで使用されている無線センサネットワークに関する研究をしており、なかでも端末となるモノに内蔵するマイクロ波回路の小型化や低消費電力化に力を入れています。
メタバースのヘッドセットも小型化が可能に
回路は電源や回路素子、配線などの部品を組み合わせて作ります。IoTの端末に使用されるマイクロ波回路はセンサから得たさまざまな情報を無線信号として処理したり、計算をしたり、データを転送したりといった重要な役割を担っています。このマイクロ波回路を小型化することで、モノのサイズも小型化が可能になります。
例えば、インターネットで現実のような体験ができる仮想空間「メタバース」に使われるヘッドセットは、大きくて重いのが難点です。マイクロ波回路を超小型化することができれば、眼鏡サイズのヘッドセットが可能になるかもしれません。回路に流れる電力を少なくできれば、充電した端末を長時間、外出先で使用することができるようにもなります。
また、電子回路には、デジタル信号を扱うデジタル回路とアナログ信号を扱うアナログ回路があります。AIやコンピューターに使われているのは主にデジタル回路ですが、スマートメーターで検知する電気の流れる量、温度などの自然界の情報はアナログです。このため、アナログ情報はアナログ回路を利用してセンサから取り込み、さらにデジタル情報に変換しています。この変換技術の高性能化にも取り組んでいます。
研究は、電流の大きさを調整する抵抗や磁力を発生させるコイル、電気を蓄えたり、放出したりするコンデンサ、さらにトランジスタやIC、ダイオードなどの回路素子をコンピューターシミュレーションで組み合わせて、設計図を作ります。試作品で一定の成果が得られれば、IEEE(米国電気電子学会)の国際会議や国内の電気・電子・情報分野の学会誌に投稿しています。
組み合わせにより、全く別の回路ができるおもしろさ
回路の設計は素子の組み合わせ次第で「1+1=2」ではなく、「+α」の新たな付加価値が生まれることがあります。例えば研究室の学生は、私が特許を持つある小型化マイクロ波回路の設計をベースに、高い機能を持つマイクロ波回路を考案し、学会で高い評価を得ました。研究の種から予想もしない花が咲くことがある。これが回路の研究のおもしろいところです。
一方、無線センサネットワークは便利ですが、一歩間違えれば犯罪に悪用されるリスクを持っています。この点を踏まえつつ、安心・安全で快適な社会の実現を目指しながら、今後も研究に取り組んでいきたいと考えています。
この一冊
『トラ技ジュニア』
(CQ出版)
電気・電子・情報系のプロたちが各種のデバイスの設計方法や、実験の技術をわかりやすく解説する専門雑誌。学生と新人エンジニア(25歳以下)には無料配布しており、取り寄せている高校もたくさんあります。この分野に進みたい人には早い時期から読むことをすすめます。
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林 等
- 理工学部情報理工学科
教授
- 理工学部情報理工学科
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東京大学工学部電子工学科卒、同工学系研究科修士課程修了。博士(工学)。日本電信電話株式会社(NTT)、上智大学理工学部准教授などを経て、2017年より現職。
- 情報理工学科
※この記事の内容は、2022年11月時点のものです