企業の一方的なマーケティングから、消費者発のマーケティングへ

インターネットマーケティングや消費者行動分析を研究している経済学部の新井範子教授。これからは、今までのような広告モデルではなく、消費者同士のつながりが広めていく「推し活」マーケティングの時代になるだろうと予測しています。

私はマーケティングが専門ですが、学位を取得したのはインターネット上での消費者行動についての研究でした。その後、インターネットの環境が変わることで研究テーマも変化しています。もともと興味のあった研究テーマはインターネット上でモノを買うとき、人はどのような行動をするのか。ソーシャルメディア上の書き込みを抽出してそれが商品の売り上げとどう関係しているのかという研究です。

今は基本的にはソーシャルメディア上でのそのデータを俯瞰して、書き込みと売り上げの関係性を分析しています。その結果、消費者は広告を見てモノを買うのではなく、自分たちで「これいいよ」と書き込み、積極的にその場に参加してコミュニティーを作っていることが分かりました。

従来、企業側から一方通行なプロモーションを仕掛けていくことが当たり前でしたが、今は商品を購入した消費者の口コミが売り上げに大きく影響するようになりました。さらに消費者よりもより強い関係、いわゆるファンたちがソーシャルメディアを通じて広めていく、「推し活」にも注目しています。ファンが結束して応援しようという流れが今は強く、従来型の広告は通用しにくくなっています。コミュニティーを作ってファン同士がつながり、モノ、人、場を盛り上げていくという消費者主体の消費者行動がメインになりつつあります。この消費者行動が企業にどう影響するのかという方向に研究内容がシフトしています。

顧客満足からパーパスドリブンマーケティングへ

また、数年前からパーパスドリブンマーケティングについても研究しています。これは、企業がどのような目的を持って社会に存在するのかという企業のパーパス(大義)を中心に行うマーケティング戦略です。

例えば、企業が社会貢献を行うとき、消費者とどう共創できるかというものです。今までは顧客満足重視のマーケティングでしたが、パーパスドリブンは自分たちの大義に賛同する人とともに動く点が、これまでのマーケティングの在り方と大きく変わる点です。

長年、「この人がこう言ったとき、こう連鎖して、こうして広がった」というネット上の口コミや行動分析の研究を行ってきたので、現在の消費者はコミュニティー内での意見や考え、つながりが重要であり、コミュニティーという概念がより生活に影響していることが分かりました。

シニア世代に金融を分かりやすく伝える

研究の社会的応用の一例に、あおぞら銀行との「フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)に関する共同研究」があります。フィナンシャル・ジェロントロジーとは、高齢化がもたらす経済的な課題やシニア世代の資産運用などを研究対象とした学問です。

シニア世代の方々に、金融商品について分かりやすく説明するために必要なスキルを獲得するための、研修プログラムの開発などの研究を行っています。これらの共同研究は、シニア世代の顧客に対する金融サービスの品質向上と安心安全な生活を送るための研究基盤を作ることを目的として始められました。

社会が日々動いているなかで経営学は力になれないと思うときもあります。しかし、時代を読み、ある程度の方向性を指し示すことこそがマーケティングの役割だと考えています。マーケティングは世の中の動きを考えること自体が興味深く、新たな市場やトレンドなど、社会の動きを補足できたと思えるところがやりがいにつながっています。

この一冊

『カンガルー日和』
(村上春樹/著 講談社文庫)

私はこの短編集のような運命論に疑問を持っていましたが、本書を読んで、好きなもの、運命だと感じているものを掘り下げることで、本当にそれが好きなのか、自分の行動はどこから生まれてきたのかを問い直すきっかけになりました。

新井 範子

  • 経済学部経営学科
    教授

慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。専修大学大学院経営学研究科で博士号(経営学)取得。専修大学経営学部教授などを経て、2010年より現職。

経営学科

※この記事の内容は、2022年10月時点のものです

上智大学 Sophia University