オジギソウの葉の動きの秘密は水。未来を変えるマメ科植物の“運動”

理工学部生命物質理工学科
教授
神澤 信行

オジギソウをはじめとするマメ科植物の葉の「傾性運動」を研究する、理工学部の神澤信行教授。食糧問題や環境問題にも関係するという研究の今後の展望と、同時に取り組む「骨再生」の研究について語っています。

触れると閉じるオジギソウの葉。あの独特で面白い動きは、植物の「傾性運動」と呼ばれていて、気温や日照に反応して花が開いたり閉じたりするのも、傾性運動の一例です。

オジギソウの傾性運動は、葉の付け根にある葉枕(ようちん)という組織の膨圧変化により起こります。葉が刺激を受けると、葉を支えていた葉枕下側の細胞のアクチンというタンパク質から出来た骨組みがバラバラに崩壊して、同時に下側の細胞の水が葉枕の上側に移動します。そうすると、もともと水があった部分が収縮するから葉が閉じる、というのが大まかな仕組みです。

植物の葉の表皮にある孔辺細胞が開いたり閉じたりする動きにもやはりアクチンが関わっていて、基本的なメカニズムはオジギソウの傾性運動とほぼ同じだと思います。そもそも葉枕と孔辺細胞は同じ細胞から派生し、進化の過程で機能分化したのではないか、というのが私の考えです。そうだとすれば、葉枕のメカニズムを解明することで、将来的に気孔の働きをコントロールして、乾燥に強い植物を作ることもできるかもしれません。

葉が閉じる機序が分かれば、農業、環境改善に役立つ

植物の中でも、葉の傾性運動が見られるのはマメ科の特徴の一つで、オジギソウ以外のマメ科植物も、暑い日の日中や夜は葉を閉じています。植物が葉を閉じるのは蒸散をコントロールし、よりいい状態で光合成をするためですから、葉を閉じる機序が完全に明らかになれば、マメ科植物の生産性を高める方法の発見にもつながるでしょう。

マメ科植物を効率よく生産できるようになると、農業に役立つとともに、環境面にもいい効果が期待できます。マメ科植物は大気中の窒素を植物が使える状態にして土の中に取り込む働きがあります。昔から、畑を休ませてマメ科の植物を植えるのは、窒素を含む化学肥料の量を減らして別の作物を育てることができるからなんです。マメ科の植物はいろいろな意味でこれからの世の中に必要な植物だと私は考えています。

「植物」と「骨再生」。当分は“二足のわらじ”で

実はもう一つ、力を注いでいるテーマがあります。それは、Apatite Fiber Scaffoldという素材を代替骨として役立てるための研究です。

Apatite Fiber Scaffold は、言うならばヘチマのタワシのような構造です。シャーレの上で二次元的に培養した細胞と、Apatite Fiber Scaffold の三次元的な足場で培養した細胞とを比較すると、三次元的な足場で培養した細胞のほうが優れた機能性を持つと言われてはいるものの、そのはっきりとした理由はまだ誰も説明できていません。当面の目標は、三次元的な足場が発現を促す機能とその優れた点を説明するキーワードを見つけること。この研究の成果が代替骨を培養する医療用デバイスの開発につながれば、将来的には膝の痛みや骨折、骨粗鬆症の治療にも役立つはずです。

研究をしていて一番楽しいのは、「仮説が外れたとき」かもしれません。自分の能力を越えた向こう側に何があるのか、“妄想力”をフル回転させてあれこれ考える時間が、私の原動力です。これほど異なる分野に同時に取り組む研究者はあまりいないでしょうが、どちらの研究もあきらめたくないし、誰もやっていないからこそやるんだという気持ちもある。2足のわらじは、当分脱がないつもりです。

この一冊

『THE PULVINUS: MOTOR ORGAN FOR LEAF MOVEMENT』
(RUTH L. SATTERほか/著 American Society of Plant Physiologists)

Pulvinusは英語で葉枕のこと。もともとは無脊椎動物の筋肉の研究をしていた私が、植物に興味を持ったきっかけがこの本でした。 オジギソウの研究に携わる一人として、いつかはこの本の内容を超える発見をしたいですね。

神澤 信行

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授

千葉大学理学部生物学科卒、同自然科学研究科博士後期課程修了。博士(理学)。上智大学理工学部助手、准教授を経て、2014年より現職

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2022年5月時点のものです

上智大学 Sophia University