植物の組織ごとに多様化した葉緑体の制御を解明する

植物科学が専門の理工学部の藤原誠教授は、遺伝子の機能や顕微鏡観察などの解析を進めている過程で、植物の組織ごとに葉緑体の形成や増殖の制御が違うことに気づきました。植物が葉緑体を制御する精妙な仕組みとは?

光合成により水と二酸化炭素から酸素と養分を生み出す葉緑体。顕微鏡で植物の葉を観察すると、一つの細胞あたり数十から数百個の葉緑体を認めることができます。私は長年、その丸い粒状の美しさに魅了されてきました。

葉緑体が存在するのは、葉の表裏の表皮の間にある葉肉細胞や、表皮の気孔を構成する孔辺細胞などです。近年の私たちの研究から、葉肉細胞や孔辺細胞の葉緑体の形成や増殖は一様に制御されているわけではないことが分かってきました。

分裂時に不具合が生じてもバックアップする機能に着目

酸素発生型の光合成を行うシアノバクテリアの祖先が真核細胞に取り込まれた後、共生して細胞内小器官へモデルチェンジしたのが葉緑体の起源だと考えられています。実際、葉緑体は独自の遺伝情報を持ち、植物細胞の分裂に追随できるくらいのペースで自身も分裂増殖します。

葉緑体の分裂に関わる遺伝子が破壊されると、その葉緑体は当然ながら増殖に異常を来します。そのような葉肉細胞では葉緑体の数は遺伝子の重要度に応じて減少してしまいます。

面白いことに、葉緑体分裂に最も重要な遺伝子が壊れても、葉はほぼ正常に発達し葉肉細胞に最低一個は葉緑体が含まれます。さらに不思議なことに、孔辺細胞では葉緑体を失った細胞が出現するのですが、そこにも光合成能力を失った“葉緑体”(この場合、葉緑体とは呼べないのですが)が必ず存在しており、一部の細胞ではそれらが本来の葉緑体の数以上に増えていたのです。

孔辺細胞の形成に合わせて、何らかの形で葉緑体が受け継がれる機能があると考えざるを得ません。詳しいことはまだ分かりませんが、一種のフェイルセーフシステム、つまり、たとえ分裂装置に不具合が起きたとしても葉緑体が少なくとも一つは葉肉細胞や孔辺細胞に分配される仕組みが作動すると考えられます。

葉緑体は、厳密には根などに存在する無色の白色体(ロイコプラスト。デンプンを貯蔵するものはアミロプラスト)、花や果実に見られる橙色、黄色、赤色などの色素を貯蔵する有色体(クロモプラスト)などと共通の色素体(プラスチド)の仲間です。もっぱら光合成を行っていたシアノバクテリアの祖先が植物の進化過程で光合成以外の機能を発達させて、多様な色素体が生まれたと考えられます。

これまでの研究から、植物の組織に応じて葉緑体、アミロプラスト、有色体などの色素体が存在して、葉緑体型と非葉緑体型の制御が働くことは知られていました。私たちの研究は、色素体の一種である葉緑体もまた一枚の葉の中で組織ごとに異なる制御を受けている一端を明らかにしたのです。

顕微鏡による観察技術を磨き、植物に教わる

今後は植物の遺伝子機能の知識をベースに、顕微鏡による観察技術を磨いて、葉緑体の謎を解き明かしたいと考えています。植物のライフサイクルの中で起きている現象を生きた組織で正確に追跡するのが目標です。

顕微鏡を覗いて目の前に現れる現象は確かです。そのような手応えを得られるところに、この研究の醍醐味があると感じます。特に自分の予想もしなかった事態に遭遇して閃きが得られた時の喜びは格別です。

研究室でのポリシーは「植物から学ぶ」です。興味を惹かれ取り組んでいる時には、植物がふと教えてくれるという感覚があるからです。いつもではありませんが、実験にのめり込むと祈るような気持ちになることがあります。

この一冊

『中国古典「一日一話」 世界が学んだ人生の“参考書”』
(守屋 洋/著 三笠書房)

以前参加した公開講座のテキストが本書でした。論語、菜根譚、呻吟語など含蓄のある中国古典の言葉が紹介されています。普段、文献読みや研究発表などでは英語を集中して用いますが、時折、和漢の古典に触れることで頭と心のバランスが保たれるように感じます。

藤原 誠

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授

東京大学農学部農芸化学科卒、同大学院農学生命科学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。2021年より現職。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2022年7月時点のものです

上智大学 Sophia University