数学トピックの背後にある繋がりを利用して素数の謎を解く

理工学部情報理工学科
准教授
ファビアン・ブノワ・トリアン

代数幾何学、数論を専門とする理工学部のファビアン・ブノワ・トリアン准教授は、p進ゼータ関数や楕円曲線の理論を使い、数学上の難問に挑んでいます。まったく異なるように見えるトピックを繋げる現代数学の魅力とは?

私たちの身の回りにあるすべての物質は原子を単位として構成されています。数の世界でも、整数の原子に相当するものがあります。それが素数。なぜなら、すべての整数は素数を掛けて作ることができるからです。

素数を2、3、5、7、11、13、と小さい順に並べても規則性は見出せません。ところが、ドイツの数学者リーマンが1859年に提唱した「リーマン予想」は、一見不規則に見える素数の世界に秩序があることを示唆しています。この予想は今も解決されていませんが、もし正しければ、たとえばある数よりも小さい素数の個数をかなり正確に計算できるはずです。

実数とは異なるp進数が素数解読の鍵を握る

一口に数学と言っても、素数や整数などの性質について研究する数論、方程式を扱う代数学、関数の極限や収束を議論する解析学、図形の繋がりを検討する幾何学など分野はさまざまです。しかし、表面的な違いはあっても、実は繋がりがあることが現代数学によって明らかになってきました。リーマン・ゼータ関数も、水と油に思える数論と解析学を結び付ける点で、分野間の架け橋と言えます。不規則に見える素数を、解析学の手法により考察することを可能にしているからです。

しかし、リーマン・ゼータ関数はそのままでは扱いにくいため、リーマン・ゼータ関数に類似する関数が考案されてきました。私の研究テーマの一つであるp進ゼータ関数もその一つです。

p進ゼータ関数はp進数という独特な数の世界に属しています。実数の世界では0、1、2、3、と数が大きくなりますが、p進数の世界では、素数pに向かうほど0に近づき、p2、p3、p4、と徐々に0に近づきます。小学校から習う実数とは考え方に大きな違いがありますが、実はp進数も実数も、すべての有理数(分数で表される数)を含んでいます。

p進ゼータ関数についての理解を深めれば、バーチ・スウィンナートン=ダイアー(BSD)予想と呼ばれる未解決問題に迫る手がかりも得られると考えています。BSD予想は、y2=x3で表される楕円曲線上の有理点(x座標、y座標ともに分数で表される)の個数を、ゼータ関数のような関数を使って求めることができるかを問うものです。楕円曲線は現代の仮想通貨やICカードの暗号化に利用されているので、BSD予想の研究は暗号学とも関わりがあります。

俯瞰的な視点から問題を解く

私は、日本、フランス、英国、台湾などの数学者と共同で研究を進めています。私が得意としているのは、数学的な対象の背後にある対称性や、双対性と呼ばれる裏表として捉えられるような関係を使って問題を解く、抽象的な手法です。空を飛んで上から問題を眺めるスタイルと言ってもいいでしょう。一方、共同研究者には、具体例を挙げて正面から問題に取り組むことを好む人もいます。お互いの長所を活かし、良いコラボレーションができると感じています。

p進L関数や楕円曲線の研究を通じて、数学上の難問の解決に少しでも貢献したいですね。

この一冊

『Séminaire de Géométrie Algébrique du Bois Marie(マリーの森の代数幾何学セミナー)4』
(アレクサンドル・グロタンディーク/著 シュプリンガー出版)

本書は、天才数学者のアレクサンドル・グロタンディークによるセミナーをまとめたものです。全13巻のうち第4巻を大学院時代から何度も読んでいます。グロタンディークは私の師匠の師匠のそのまた師匠でもあります。数学界では、親しみを込めて「ひいおじいちゃん」と呼ばれることもあります。

ファビアン・ブノワ・トリアン

  • 理工学部情報理工学科
    准教授

1996年、フランスのレンヌ第一大学にて博士号取得。東京大学など複数の博士課程修了。英国のノッティンガム大学にて教鞭を取る。エクセター大学准教授を経て、2015年より現職。

情報理工学科

※この記事の内容は、2022年8月時点のものです

上智大学 Sophia University