外国語学部のマウロ・ネーヴェス教授は、文献の分析やフィールドワークを通じて、ポップカルチャーがどのように生まれ、国を越えて人々にどう浸透しているのかを研究しています。生活との結び付きが深いポップカルチャーの研究は、さまざまな社会や人々を深く理解するための出発点になると考えています。
ポップカルチャーを研究することは、それを生み出した社会的背景・構造への理解につながります。ある国のポップカルチャーが国を越えて他国でどのように捉えられているかを知ることで、お互いの関係だけでなく世界という広い視野から両国のつながりを洞察することができます。
今の時代、ある国が抱える問題は、ほかの地域ともなんらかの関係性があるものです。それだけに、常に変化する世界各地の状況を把握していくことが、グローバル社会では非常に重要だと考えています。その方法のひとつが、人々の日常生活と密接な関わりを持つポップカルチャーの研究です。これらの人々は、ポップカルチャーの作り手でもあり、消費者でもあるのです。
作り手と消費者それぞれから見たポップカルチャー
ポップカルチャーは、人類学、言語学、政治学、経済学、ジェンダー研究などの分野において、さまざまな方法で研究されています。私は歴史学を長らく学んできたので、歴史学的アプローチを採用することが多いですね。歴史研究の基本的手法は文献分析ですが、同じく重要なのがフィールドワークです。これらの手法を用いて、ある国で誕生したポップカルチャーが、別の複数の地域でどのような現象を引き起こしているかを比較しています。
現在、私が取り組んでいる研究のひとつは、K-POPがアジアだけでなくラテンアメリカを含む世界各地で成功した理由を探るというもの。その手がかりを得るために、まず韓国のメディア関係者や出版関係者へのインタビューからはじめました。そして、ブラジル、メキシコ、ペルー、コロンビア、アルゼンチンなど、K-POPを支持する世界各地の人たちにもインタビューを行いました。
すると、地域によってK-POPに対する人々の思いや期待が異なることが分かったのです。例えば、アメリカンポップはラテンアメリカでも人気がありますが、文化的な侵略と見なす人もいます。この点、K-POPはそのような葛藤をかき立てることはないようです。また、K-POPが日系移民コミュニティを通じてブラジルに浸透していった背景があるなど、移り住んだ人々がポップカルチャーを広めるうえで重要な役割を果たしていることも分かってきました。
さらに、ある国のポップカルチャーがほかの地域でどのように普及したかを見ていくと、道徳観や宗教などさまざまな要因により、何が受け入れられ、何が受け入れられないかが決まるということに気付かされます。
社会の変化とともに学術的アプローチも変化
テクノロジーの進化や人々の情報リテラシーの向上、さらには新型コロナウイルスの大流行によって、ポップカルチャー作品の発表・消費方法が急速に変化しています。音楽や映画制作には、もはやクリエイターやエンジニアから成る大がかりなチームは必要なく、セルフプロデュースした作品をオンラインで公開することが可能です。視聴者からは、直接そして瞬時に、反響やコメントが寄せられます。
こうした変化に伴って、私自身の研究方法や、発表方法も変わりました。この2年間、フィールドワークはリモート中心になりましたし、デジタル出版された音楽作品や映画に対する視聴者のコメントまでもが文献分析の対象になりました。その過程で、あるシーンや表現に対し、異なる文化を持つ人々が全く異なる反応を示すことに驚かされることもあります。また、ライブ配信ツールのおかげで、リアルでは参加し得なかった方々が私の講義をオンラインで聴いてくれているのもうれしい驚きです。
私はいつも、偏見や固定観念に捉われず、現実を直視することを心がけています。好むと好まざるとに関わらず、ポップカルチャーの作品に表現されている事柄から、目をそらしてはなりません。なぜなら、それは現実の世界で起こっていることだからです。例えば、ラテンアメリカのテレビドラマで薬物が描かれるのを目の当たりにするのはとても辛いものですが、しかし、それが現実なのです。ポップカルチャーの研究が他者理解の一助となることを願って、研究者としてあらゆる事象を公平な目で見極めることに注力していきたいと考えています。
この一冊
『Modernity at Large: Cultural Dimensions of Globalization』
(Arjun Appadurai/著 University of Minnesota Press)
過去を研究する歴史学者として、未来にどう貢献できるかを自問自答し続けてきました。そんな時、ポップカルチャーの分野で社会的意義のある成果をあげられると確信させてくれた一冊です。グローバリゼーションを文化的観点から分析する著者の人類学的、記号論的アプローチがインスピレーションを与えてくれました。
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マウロ・ネーヴェス
- 外国語学部ポルトガル語学科
教授
- 外国語学部ポルトガル語学科
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ブラジリア大学で歴史学の学士号を、佛教大学で日本史の修士号を取得。1994年 より現職。以来、世界6か国で客員教授として研究・指導。
- ポルトガル語学科
※この記事の内容は、2022年6月時点のものです