異文化間インターアクションから、英語の使い方にまつわる事象を解き明かす

外国語学部英語学科
教授
リサ・フェアブラザー

日本国内外における英語コミュニケーションの中で起きるさまざまな問題を、社会言語学者の視点から研究している外国語学部のリサ・フェアブラザー教授。異なる文化的背景を持つ者同士がインターアクションを行う時、どんな誤解や問題がどのようにして起きているのかを解き明かします。

私の研究対象は、ひとことで言うと「言語の問題」です。もう少し詳しく説明すると、異なる文化的背景を持つ人同士が英語で話すとき、それらの文化的背景が原因となってコミュニケーションにどんな影響があるのか、それがどのような問題につながっているかを研究しています。コミュニケーション上生じる問題の原因というのは実に幅広く、言語能力はもとより、話者が生まれ育った地域や社会制度、習慣、社会階級、相手との関係性など多岐に渡ります。

英語のコミュニケーションで誤解が生じる要因として、”first floor”のように、国によって指す階が「一階」にも「二階」にもなるような言葉や、否定疑問文への答え方など、文法の違いなどを含む言語のメカニズムが挙げられます。

一方、私にとってより興味深いのは、文法や語彙、発音以外の要因です。例えば、礼儀正しさの概念の違いから生じる行き違い。海外留学した日本の学生からよく聞くのが、ホストファミリーから”Would you like some cake?”とおいしそうなケーキをすすめられた時、まずは遠慮して”No, thank you.”と言ったら、あっさりケーキは下げられてしまった、という笑い話。この場合、文法的な問題ではなく、学生が言葉の裏に込めた意味がホストファミリーには伝わらなかったということが原因です。

また、授業で私が”I didn’t graduate from high school.”(私は高校を卒業していません)と言うと、学生はびっくりします。種明かしすると、私の出身である英国の高校に卒業式はなく、”graduation”といえば大学の卒業式のことなので、教育制度の違いが誤解の原因になる場合もあるのです。

摩擦につながる価値観の相違を探り出す

世界各地から社員が集まり、英語でコミュニケーションしているグローバル企業の職場も、大変興味深い研究対象です。実際に最近起こった出来事について社員に語ってもらい、そこから日々、起きているコミュニケーション上の問題をあぶり出していきます。

日本の職場では特に礼儀正しさやヒエラルキーが重視されます。こんな例があります。オープンで上下関係のない社風を掲げるグローバル企業の日本オフィスに、CEOが来日して訪れた時の話です。ここで働く南米系のある社員がCEOに話しかけ、そこで和やかな会話が交わされたのですが、日本人の同僚からは、ヒエラルキーを軽視していると反感を買ってしまったというのです。使う言語は英語であっても、そこには日本の価値観が強く影響されるという事例で、この認識を持っていないとコミュニケーションに問題が生じてしまうのです。

多様性のある社会実現にも役立つ研究

英語が母語ではない人同士が英語で話す際には、どちらの英語のほうが適切か、という論争も起こります。このような場合、組織内のパワーダイナミクスが大きく作用し、たいていは立場が上の人の英語が正しいことになります。権力、階級、ジェンダーなど社会学的要因と 言語との関係は、私にとって重要な研究対象の一つです。

オンライン化が急速に進む中、今、取り組んでいる最新のテーマは言語の問題とテクノロジー、特にオンラインフォームや手続きに関連する問題です。日本では、外国人の名前をローマ字やカタカナでオンライン入力して手続きする際に、さまざまな問題が起きており、こうした事例を集めて調べています。今後、海外から日本へやってくる就労者や滞在者が増えれば言語による問題も増えるはずで、社会言語学の知見が大いに役立つと考えています。

この一冊

『外国人とのコミュニケーション』
(J.V.ネウストプニー/著 岩波新書)

「外国人とは何か?」の問いかけで始まる本書の内容は、来日当初の自分の体験とも重なり、探求心を刺激されました。現代人の視点からは古いと感じる部分もありますが、大学院で社会言語学を研究するきっかけとなった大事な本です。

リサ・フェアブラザー

  • 外国語学部英語学科
    教授

1992年オックスフォード大学にて近代史の優等学位を取得後、英語補助教員として来日し日本語を学ぶ。千葉大学にて第二言語としての日本語教育において修士号、日本学(言語学)において博士号を取得。2002年10月より上智大学勤務。

英語学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University