スマートフォンやソーシャルメディアのデータから人の心や行動を理解する

応用データサイエンス学位プログラム
准教授
深澤 佑介

スマートフォンやソーシャルメディアなどが生み出すデータから、人の心や行動の理解に関する研究に取り組む、応用データサイエンス学位プログラムの深澤佑介准教授。その中でも、スマートフォンのデータをメンタルヘルスの不調の検知に活用する研究について語ります。

ストレスや心の病気という言葉を耳にする機会が増え、メンタルヘルスは社会の関心事の一つになっています。私はスマートフォンやソーシャルメディアが生み出すビッグデータを使って、ユーザが自身の心の状態をチェックできるような世界を目指して研究しています。

スマートフォンの履歴から外出活動や運動状況を把握

心の不調はからだの不調のように目に見えるものではないだけに、異常を感じても「ちょっと疲れているだけ」とやり過ごしてしまいがちです。そして無理を重ねた結果、うつ病などの心の病気を発症してしまうことがあります。そこで心の不調を早期に検知できる方法はないかと考えたときに思いついたのが、スマートフォンでした。いまやスマートフォンは多くの人たちが所持し、どこへ行くにも携帯しています。そのため、利用者のさまざまなデータがスマートフォンに記録されています。私はこれを利用しない手はないと思ったのです。

データとして役立つのはGPS機能や、スマートフォンの動きや傾きを検知する加速度センサ、周囲の照度にあわせて画面の明るさを調整する照度センサなどの使用履歴です。GPS機能の位置情報から利用者の移動距離を積算し、加速度センサから得られる歩数、歩行スピードからは外出活動や運動状況を知ることができます。また、スマートフォンの明るさやロックデータからは、スマートフォンを使用していない時間が分かります。さらにスマートフォンの明るさや動き、画面の「on/off」の履歴を組み合わせると、暗い中でスマートフォンを使用していることが推測できます。

7~8割の確率でメンタルヘルスの状態が推定可能に

実際にこのようなデータが心の状態を反映しているのかどうかを調べる実験も精神科医の協力のもと行ってきました。実験では参加者の承諾を得て、普段使用しているスマートフォンの使用履歴から、必要なデータを取得します。ウェアラブルデバイスを装着してもらい、精神的ストレスの指標となる心拍数のデータの抽出も行います。こうして得られたすべてのデータを機械学習によって解析するのです。このようにスマートフォンのデータの組み合わせを変えながら同様の実験を繰り返した結果、7~8割という高い確率でメンタルヘルスの状態を推定できるようになりました。

スマートフォンやソーシャルメディアなどの利用によって人が生み出すデータはメンタルヘルス以外にもさまざまな領域で役に立つ可能性を秘めています。人々の実世界の行動を予測することができれば交通や運輸領域の課題解決につなげることができます。また人間の行動の目的が分かれば、個々の人に対してよりパーソナライズされたサービスを提供することができます。今後は、最先端のAI技術を理論的基盤として、さまざまな人間活動から生み出される異種混合の人間行動データを統合的に処理・解析することで、人々の生活の質の向上につながるような、さまざまな研究テーマにチャレンジしていきたいと考えています。

この一冊

『大局観』
(羽生善治/著 角川新書)

棋士の羽生氏は多くの対戦を経験することで、未知の課題を解決する力を得るようになったと言い、これを大局観という言葉であらわしています。経験することがいかに大切かを実感すると同時に、AI(人工知能)がこの力を持てるようになるのか興味を持っています。

深澤 佑介

  • 応用データサイエンス学位プログラム
    准教授

東京大学工学部卒業、同大学大学院工学系研究科修士課程修了。株式会社NTTドコモを経て、2023年より現職。博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科博士後期課程修了。東京大学人工物工学研究センター客員研究員。現在、早稲田大学イノベーション研究所招聘研究員を兼任。

応用データサイエンス学位プログラム

※この記事の内容は、2023年5月時点のものです

上智大学 Sophia University