思考力を育てる21世紀型の英語教育メソッドCLILで日本の教育を変えたい

文学部英文学科
教授
池田 真

英語学と英語教育を専門とする文学部の池田真教授は、21世紀型の教育メソッド「CLIL(クリル)」を日本の教育に導入すべく研究を行っています。思考力を育てるCLILの導入で教育がどう変わるのか。その意義や可能性について語っています。

専門は英語学と英語教育で、10年ほど前からCLILを日本に普及させるための研究に力を注いでいます。CLILとは、Content and Language Integrated Learningの略で、日本では「クリル」あるいは「内容言語統合型学習」と呼ばれています。

20年くらい前からヨーロッパで普及し始めた教育メソッドで、数学(算数)、理科、社会などの教科科目や特定のテーマを、英語で学ぶことによって、専門的な知識や英語力のみならず、学習者の思考力、議論する力、創造力なども育てることができると注目を集めているものです。なかでも着目したい点は、内容を理解するだけではなく、その知識を使って何か別の新しい考えを生み出したり、自分の意見を表明したりする能力を培えるというところです。

正解ありきの知識や技術を身に付けるのではなく、答えのない問題についてさまざまな情報を検討・分析し、議論し、評価をし、自分なりの考えを構築して新しい何かを生み出す。そうした汎用的能力を意図的に育てることができるのです。CLILが普及したら、日本の教育は根本から変わる。そんな可能性を秘めたメソッドです。

研究は、最新の理論研究、実践、教員育成の3本柱で

研究に当たっては、3本柱で臨んでいます。1つ目は、最新の理論の研究です。本場ヨーロッパから発信されている最新の専門書や論文を常にチェックし、情報収集しています。ただし、ヨーロッパと日本とでは環境や学習者が抱えている課題が異なるので、その理論をどのように日本に当てはめていくか考慮しつつ、導入を検討していきます。

2つ目は、教育実践と教育効果検証です。全国にある研究協力校でCLILを導入した授業を実際に行い、データを取っています。どのように英語力が育ち、CLILを行った教科の学力がどう身に付いたかなどの教育効果を検証することはもちろんのこと、各先生方が工夫したやり方を、今後の導入校に生かせるように記録し、論文や本にまとめることも大切だと考えています。

3つ目は教員研修です。小中高大学の種別を問わず、全国の先生方に講演やワークショップという形でCLILを紹介しています。これは、研究成果の社会的な還元という意味合いもあります。

教育技法が格段に向上するCLILをすべての教育に

CLIL導入に当たっては、英語を教える以外に、考えることや準備することがたくさん発生します。他教科や題材となる社会的なテーマについての勉強のほか教材研究も必要ですし、どのように生徒に考えさせるかも工夫を凝らさないといけません。労力はかかりますが、CLILを実践した先生方はみなさん口を揃えて言うのです。「自分も学習者に戻れて楽しい。新しく学んだやり方で教えたことで、生徒が力を付けていくことが喜びだ」と。CLILを実践すると教育技法が格段に向上するので、元のやり方には戻れないという声も非常に多く聞かれます。

CLILは今のところ、主に英語教育のなかで行われていますが、その技法は他教科や日本語での学びにも応用できるものです。私の最終目標は、日本におけるすべての教育にCLILを導入することです。そして、日本の教育界を変えたい。そのために尽力していきたいと思っています。

この一冊

『ノルゲ』
(佐伯一麦/著 講談社文芸文庫)

作家である著者が妻のノルウェー留学に同行し、首都オスロでの一年間の生活を綴った私小説。慣れない異国で徐々に広がる交友関係など、海外生活の空気のようなものが共有されます。自然や気候の描写も秀逸で、実際にオスロに住んでいるかのような錯覚すら覚えます。

池田 真

  • 文学部英文学科
    教授

早稲田大学政治経済学部経済学科、上智大学文学部英文学科卒。上智大学文学研究科英米文学専攻博士前期課程、ロンドン大学キングズカレッジ大学院応用言語学・英語教育修士課程修了。上智大学文学研究科英米文学博士後期課程満期退学。博士(文学)。上智大学文学部英文学科講師、准教授を経て現職。

英文学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University