光とさまざまな物質の相互作用を明らかにし、新しい技術の開発につなげる

理工学部機能創造理工学科
教授
江馬 一弘

光とさまざまな物質の相互関係について研究している理工学部の江馬一弘教授。次世代の太陽電池として期待されているハイブリッド材料のペロブスカイトや、光で糖や細菌の有無を検出するセンサーの共同研究について語っています。

太陽や、暗闇を照らす照明などの光。光は宇宙で一番速く1秒間に地球を7周半も回る速度で進みますが、その一方で、水や空気、その他の物質に当たると吸収されたり、四方八方に散乱したり、また反射、透過などといったさまざまな動きを見せます。私の研究はこのような光と物質の相互作用、つまり光が物質に当たったときに何が起こるのかを物理学的に調べることです。

対象となるのは、半導体から有機材料、異なる物資を組み合わせて作ったハイブリッド材料、そして糖や細菌を検出できる分子までさまざまです。光には波の性質があり、波長の違いによって色やエネルギーが違います。実験では、レーザー光を「1秒の10兆分の1程度」の速さで対象物に照射し、光と物質の間で起こっている現象をコマ送りのようなイメージで観測していきます。

ハイブリッド材料のペロブスカイトが太陽電池の材料に

光と物質の相互作用が明らかになれば、その特性を利用した新しい技術の開発につなげることができます。例えば半導体レーザーは光と半導体の作用により、用途に合わせた波長の光を放出させることができます。また、光通信は光を閉じ込めるグラスファイバーの性質を利用し、高速通信を可能にしました。

私が20年以上研究を続けてきたハイブリッド材料の「ペロブスカイト」も、「ペロブスカイト太陽電池」として、急速に開発が進んでいます。太陽電池は、光が当たると電気が発生する物質を利用し、光を電気に変換する仕組みです。現在、普及している太陽電池は材料として主にシリコン製の半導体が使われています。ペロブスカイトはこれらと比べ、太陽光から電気への変換効率が高く、製造が簡単であることなどから、安価で大量生産ができると期待されているのです。

研究を始めた当初、光とペロブスカイトの次元性の関係に興味を持ちました。次元性というのは、物質の中の電子を2次元平面や1次元の線状に閉じ込めることです。この時は太陽電池応用は全く考えなかったのですが、我々の2000年頃の研究成果を、日本の太陽電池の研究者が注目してくれまして、2008年にはペロブスカイト太陽電池が初めて発表されました。こうした経緯から私たちの研究を「ペロブスカイト太陽電池を作ったきっかけのプロジェクト」と評価していただいています。

途上国などを対象に水の中の細菌を光で捉える研究も

ぺロブスカイトの研究は現在も継続中ですが、並行して糖や細菌を対象とした研究にも取り組んでいます。私はさまざまなものを実験の対象にしているため、他の分野の研究者から、「これを使ってみては?」と声をかけてもらうことが多く、糖や細菌の研究もここからスタートし、現在は学内で重点領域研究として進めています。糖や細菌を捕まえて発光する分子の存在が分かっています。これを利用して、血液中の糖を測定したり、水の中の細菌を捉えたりできるセンサーの開発を目標に、複数の研究者たちと共同研究を進めています。

とくに細菌を捉えるセンサーは喫近のテーマです。世界には安全に管理された水を利用できない人々が大勢います。光センサーで水の中の細菌の状況が瞬時に分かれば、その水が飲めるかどうかが判断できる。SDGs(持続可能な開発目標)の一つである「安全な水とトイレを世界中に」の実現に、仲間たちと貢献できたらと考えています。

この一冊

『鏡の中の物理学』
(朝永振一郎/著 講談社学術文庫)

ノーベル物理学賞受賞の著者が物理の基礎を、ユーモアを交えて分かりやすく解説した本。短編の1つ、「光子(こうし)の裁判」では、光の最小単位である光子を窓から入ってきた泥棒役に例えて話を進めます。物理を全く知らない人も、面白く読めることを約束します。

江馬 一弘

  • 理工学部機能創造理工学科
    教授

東京大学工学部物理工学科卒、1985年、同大学院工学系研究科物理工学専攻修士修了、1986年、同大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程中退。1991年、博士(工学)。東京大学工学部講師などを経て、2001年より上智大学理工学部教授、現在に至る。

機能創造理工学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University