日本文化を肌で体感 -サマーセッション・プログラムー

サマーセッション・プログラムは今でこそ日本のいろいろな大学で提供されている夏の集中講義プログラムですが、このプログラムを1961年からおこなっていたのが上智大学です。海外からの学生に、日本文化、日本社会、東アジア地域の経済などについての講義を行い、異文化体験をしてもらうというプログラムです。日本での老舗のサマーセッション・プログラムの歴史と魅力をお届けします。

1.サマーセッションのはじまり

日本の大学では通年授業や半期授業が一般的だった1960年、国際部(当時)のJohn Blewett神父(1922-2003)は、欧米人の日本文化に対する関心が高まってきたことに注目し、多くの欧米の大学が夏休み中に実施している集中講義であるサマーセッションを上智大学でも開催し、単位を取得できる科目を開講したいと提案し実現したものです。そのプログラムを支えたのは国際部の教員たちでした。国際部は1949年に設置された学部で、日本に住んでいるアメリカの軍人や欧米諸国の駐在員の子女が多数入学し、英語で授業を行っていました。日本にいながらアメリカの学位を取得できる学部として、10年で約10,000人の学生を英語で教育してきた実績がありました。英語で行う教育に対して経験豊かな教員が多くいたからこそ、このプログラムを組み立てることができたのです。また、上智大学は戦前より東アジアや日本の文化を紹介・研究する雑誌モニュメンタ・ニポニカを刊行するなどし、東西文化交流に貢献するという伝統もありました。

能の観劇(1961年頃、学内)

1961年に行われた第1回サマーセッションは、アメリカの日本・アジア研究に携わる大学・高校の教員向けにプログラムが組まれていました。最初の5週間に日本語や日本文化、東南アジアの社会などの講義があり、各科目の試験終了後に、旅行会社のオプショナルツアーとして希望に応じて1~2週間の国内旅行かアジア旅行(台湾、香港、マカオなど)にも参加できるというプログラムでした。日本の文化や東南アジア社会・経済などが欧米社会に十分には紹介されていなかった時代に、広い視野を持つ人材を育成することができる魅力的なものであったと推察できます。

2.時代の変化とともに

野点を見学する留学生(1963年、学内)

その後、サマーセッションの運営と発展に尽力したMaurice Bairy神父(1916-2008)によりカリキュラムは時代の要求に応えたものになってゆきました。例えば、1965年代以降、日本の「会社組織」「終身雇用制」が特徴的であると海外から注目されるようになると、関連科目を授業に取り入れたり、日本の魅力的な技術を見るために、電気機器メーカーの工場見学や証券会社への訪問などもプログラムとして組み込んだりしました。また、大学の教室で、日本の伝統文化である華道、茶道を体験したり、お能や歌舞伎の基礎を解説してもらいながら鑑賞したりするプログラムも人気でした。学生たちは、「わび」「さび」の世界や初めて見る芸能に興味津々でした。

サマーセッションパンフレット(1974年(左)と1979年(右))

その後、日本航空株式会社(JAL)がアジアの学生にサマーセッション受講のための奨学金を出すという制度が1975年から開始されました。その効果もあり、これまで大多数だったアメリカ、カナダからの参加者だけではなく、東南アジアからの参加者も次第に多くなりました。また、卒業単位を早めに修得しようと参加する国際部の学生も増加してきました。Bairy神父の後を受け、サマーセッションを統括してきたRichard Gardner教授(当時)は、「海外の学生と上智大学の学生の交流がより一層広がってきている。留学生受け入れ数の増加に伴い、ますます重要な講座になる」と、サマーセッションの意義を高く評価していました。

3.21世紀のサマーセッション

和太鼓体験(2023年)

2009年に上智大学は、文部科学省の国際化拠点整備事業(グローバル30)に選ばれました。グローバル化戦略の一つとして、日本人の学生と、世界各国から集まった留学生が東アジア地域の一員としての日本の役割について共に学び、議論し、考える試みは、留学生にとっても、日本の学生の考えを知る良い機会にもなると、日本人学生と留学生が共に学ぶ環境にあるサマーセッションの役割が期待されました。

花道体験(2013年)

2013年には、海外の大学の学年歴の中で、夏に次いで大きな休暇期間である1月にも集中授業を提供することになり、January Sessionを開始しました。January Sessionでも日本語、日本文化、現代社会の諸問題を学べる授業を提供しています(上智大学生はこのコースを受講できません)また、大学院レベルのSophia Winter Session for Basic Inter-disciplinary Environmental Studies というプログラムも開始しました。新しいセッションの開講に伴い、Sophia Short-term Program と名前を変えて発展を続けています。

2021年で60年を迎えたサマーセッションですが、これまでの総受講者数は14,000名を超えています。受講生の中には日本で就職をしたり、日本にかかわりのある仕事をしたりしている方もいます。海外の学生に日本や日本文化を学んでもらい東西文化交流や世界的な視野を持つという人材育成はサマーセッションの当初の目的を叶えているのではないでしょうか。

上智大学 Sophia University