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ニュース 第5回 「人間の安全保障と平和構築」 2019年7月9日 実施報告

第5回 「人間の安全保障と平和構築」 2019年7月9日 
実施報告

2019年7月9日(火)午後7時05分から、上智大学グローバル教育センターが主催する連続セミナー「人間の安全保障と平和構築」の2019年度の第4回目が、上智大学四谷キャンパス2号館17階の国際会議場で開催されました。

この連続セミナーは、人間の安全保障と平和構築に関し、日本を代表する専門家や政策責任者を講師としてお迎えし、学生や市民、外交官やNGO職員、国連職員、政府職員、マスコミや企業など、多様な分野から集まった人たちが、共にグローバルな課題について議論を深め、解決策を探っていくことを目的にしています。

今年最終回となる第5回目のセミナーでは、国連世界食糧計画(WFP)アジア地域局長を務めた忍足謙朗氏(現立教大学客員教授)が、「食糧を届ける 〜貧困、災害、紛争の中で〜」をテーマに講演しました。

大塚副学長

会の冒頭、上智大学学務担当副学長の大塚寿郎教授が挨拶をしました。「食べること」は生きることと直結しており、食糧支援は人間の安全保障において欠かせないトピックのはずと述べました。また、「他者のために、他者とともに」という上智大学の教育精神と連続セミナーの目的がマッチしているとして、この連続セミナーへの期待を述べました。

忍足様

講演では、忍足氏がまず「食料安全保障」について説明しました。国連食糧農業機関(FAO)の定義によると、「食料安全保障は、すべての人が、いかなる時にも、彼らの活動的で健康的な生活のために必要な食生活上のニーズと嗜好に合致した、十分で、安全で、栄養のある食料を物理的にも経済的にも入手可能であるときに達成される」とされています。現在、地球上で約「8億」の人々が、この権利を保障されていない状況です。この数字は、全世界の9人に1人に当たります。

180人もの参加者

また、忍足氏は「300万人」という数字を大きく提示しました。これは一年間に、栄養不良が原因で死亡する5歳未満の子どもの人数です。また、母親の胎内に命が宿ってから2歳の誕生日を迎えるまでのおよそ1000日間の栄養摂取の状況によっては、発育阻害となります。一度発育阻害を背負うと、なかなか治療法がありません。食料安全保障の権利がはく奪されると、将来を担う子どもたちに取り返しのつかないハンディキャップを、一生、背負わせてしまうことになるのです。さらに、発育阻害を持った人は再び同じ障がいを持った子どもを持つ可能性が高く、貧困の連鎖にも繋がります。

その後、2014年に忍足氏が取材されたNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』を上映しました。その中で忍足氏は「正しいと思ったら、ルールを破ってもやる」と述べ、飢えた人たちを助けるために奮闘している姿が映し出されました。食糧支援は、飢餓から人々を救うだけでなく、社会や教育復興を再生する力も持っています。このTVプログラムでは、特にフィリピンのミンダナオを中心に実施された『栄養プログラム』について取り上げられました。この支援は母と乳幼児が対象で、体重身長を測定して子どもの健康状態を伝え、今後必要な栄養や衛生管理に関するセミナーを実施しながら食糧を支給しています。これからを担う子どもたちを救う、未来につながる支援なのです。

聴衆

番組の上映が終了した後、忍足氏はこの四半世紀で貧困数は半減しているものの、絶対的に食料が不足している人の数は増えている現状を紹介しました。その原因は、「紛争」と気候変動による「異常気象」です。WFPに割り当てられた予算の80%は紛争地で使われています。人為的な軍事紛争で苦しむ人々を救うために、莫大な費用がかかっているのです。忍足氏は、「この資金を開発に使えたらどんなにいいか」と述べました。そして「人々をこんなに苦しめる紛争ほど憎んでいるものはない」と講演を締めくくりました。

安野教授

講演を受けて、上智大学国際関係研究所長でコメンテーターの安野正士教授が、「300万人」という数字を改めて取り上げ、この数字は第二次世界大戦の日本の死者数に当たると述べ、数字の大きさを再確認しました。その上で、食糧援助は受け入れやすい人道支援であるが、ただそれだけでは復興するには不十分であり、WFPがどのような方法で、総合的な問題解決を目指しているのか、と質問しました。

質問に対して忍足氏は、WFPは人道支援組織であり、基本的には政治には関与しない方針をとっていることを説明しました。飢餓に瀕している政府側も反政府側も、分け隔てなく支援を行い、中立を保つためです。それゆえ、WFPが平和構築における政治的な問題に直接的に貢献していくことは組織の特性上難しいと語りました。その一方で、アラブの春などで食糧難が紛争を引き起こしたことなどを紹介しつつ、食料支援は、長期的には平和をもたらす上で重要な役割を担っていると述べました。

東教授 忍足様 安野教授

その他にも様々な質問が寄せられ、忍足氏はそれらの質問に対し一つ一つ丁寧に回答してくださいました。例えば、WHOやUNICEFとWFPに違いに関する質問に対しては、WHOは政府に対してアドバイザー的な役割を担うことが多く、一方UNICEFは病気の治療や予防のためのプロジェクトを多く手掛け、WFPは食糧援助や食料の自給に向けた援助が大きな目的になっているなど、それぞれの組織の違いを説明してくれました。また最近、現金給付や、デービッドカードの給付など、人々が市場を通じて食料を得ることで、市場経済を活性化する方法が増えていることなども紹介して下さいました。また、援助物資の大量購入による価格変動の防止策などについても解説して下さいました。

質疑応答

最後に、この連続セミナーの主催者で司会を務める上智大学グローバル教育センターの東大作教授が、「今の私たちにできること」について、忍足さんが話した「まずは問題を知ることが大事」という意見に賛成だとして、まずはこのようなセミナーに参加したり、本を読んだりして、世界の現状を知り、その中から自分は何に関与できるかを考えることが大事だと語りました。会場には多くの参加者が集まり、熱い議論が最後まで続き、今年最後の連続セミナーが締めくくられました。

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