自分が納得できる答えを見つけるためなら、苦悩さえも楽しめる。

山口 哲司さん
総合人間科学部社会学科4年

「一生本を読み続けなければならない仕事に就きたいと思うようになりました」と語る総合人間科学部社会学科4年の山口哲司さん。大学院進学を控える彼が研究者になりたいと思うまでの過程とは?

衝撃的な気づきを通じて社会に対する見方を変える

私にとって「人間を科学する」とは、どうすれば人がより良く生きられるのかを考えること。これは、総合人間科学部の他の学科にも共通する点ではないでしょうか。不利な立場に追いやられている人を見て、「自分には関係ない」「あの人たちが悪い」と言って考えること自体を放棄したり、自分とは全く違う境遇の人を一方的に偏見の目で見たりせず、想像力を働かせることが「人間を科学する」ことだと思っています。

社会学で一番面白いと思うのは、誰しもが当事者意識を持って学べること。社会学にも、家族社会学、労働社会学、教育社会学、環境社会学などがありますが、家族も労働も教育も環境も、社会を生きる上で避けられないテーマですよね。だから社会学を広く学んでいると、心から興味を持てる領域が必ず1つは出てきます。これが社会学の一番の魅力かもしれません。

その意味で、「エイジングと世代の社会学」という授業は特に印象的でした。日本の少子高齢化の実態、介護の問題、年齢差別のような高齢者に対する偏見がテーマとして取り上げられたのですが、その中で「老いる」ということに対し、自分がいかに他人事として捉えていたか、避けていたかということを認識させられました。

それまでは、年を取ったら周囲に迷惑をかけたくないと考えて生きていましたが、先生から「別に迷惑をかけたっていいじゃない」「逆に迷惑をかけられない社会って辛くない?」と問いかけられたときは、すごく衝撃を受けましたね。あの瞬間、私のように老いることを避けようとする人で溢れた社会、老いることが遠ざけられる社会って、なんて生きづらいんだろうと思ったんです。それをきっかけに「老いる」ということを相対化して考えるようになったので、気分的にも楽になりました。自分の考え方やものの見方が大きく変わった授業でしたね。

入学前のイメージをいい意味で覆す学びの環境を利用する

今振り返ると社会学は、私にとって文系の学問の中でも学びの内容が特にイメージしづらい学問でした。だから逆に広く学べる気がして、社会学科を選んだんです。入学してみると社会学科は特に必修授業が少なかったので、1~2年生の間は自由にカリキュラムを組み、社会学という枠にとらわれず、いろいろな授業を履修しながら興味のある領域を見つけることができましたね。

また、上智大学のキャンパスは小さいですが、教員と学生の距離が近いことを考えると利点だと思いました。学業だけでなく学生生活や将来のことも先生方に相談していたのですが、いつもしっかりと自分に向き合ってくださったんです。入学前、私立大学では少人数のゼミ指導は受けられないかもしれないと諦めていたのですが、社会学科のゼミは少人数で、担当の先生から密な指導を受けられたのは、本当によかったなと思っています。

文系理系を問わず全ての学部学科が四谷キャンパスにあるので、さまざまな学科の学生とディスカッションをする機会も多かったです。やはり他学科の人と交流すると、自分では気づかないことに気づかされたり、新しいことに関心を持つようになったりするので、考え方の幅が広がりますね。私は心理学科や教育学科の授業も履修しましたが、その中で学んだことが自分の研究テーマと思いもよらないところで結びつくこともありました。外国人の学生も多いので、積極的に交流すれば、文化や考え方の違いに気づく留学さながらの機会になると思います。

悩みながらも納得するまで突き詰めることを仕事に

将来の夢は大学や研究機関の研究者になることです。入学前は就職活動も視野に入れていましたが、社会学科で学びを深めていくうちに、一生本を読み続けなければならない仕事に就きたいと思うようになりました。与えられた課題や問題を解くだけでなく、自分で課題や問題を見つけ、それに対して自分が納得できる答えを見つける過程が好きなんです。

その良い例が卒業論文。学生生活の中で1番力を入れて取り組みました。最初は自分の調べたいことなんて自分が一番よく分かっているし、テーマなんて簡単に決まるだろうと思っていました。それに社会学科では、自分の興味に基づいてテーマを自由に選べます。本当に突き詰めたければ、アニメでもバンドでもいいんです。ところが実際に着手すると、自分が本当に知りたいことを言語化して研究の形に落とし込んでいくのが想像以上に大変でした。でも、アイディアを得るために専門とは全く関係のない本を読んだり、他の学生と議論を重ねたりして、悩みながらも自分が知りたいことに向かっていく過程が、すごく楽しかったんです。

だから私は、研究者という夢の実現に向け、大学院進学を選びました。予定している研究テーマは、学問的な専門用語で言うと「教育の職業的レリバンス」。国際比較のデータを見る限り、日本の教育は将来の職業に役立つという認識、つまり“役立ち感”が低いんです。だから大学院では、特にどのような層が役立ち感を感じられていないのか、それは一体なぜなのか、役立ち感を高めて勉強したいという気持ちを引き出すためには何をするべきなのか、ということを研究したいと思っています。この研究を進めていく上でも、社会学科で身につけた考え方やものの見方は間違いなく役に立つと信じています。

※この記事の内容は、2021年11月時点のものです

上智大学 Sophia University