上智大学 国連Weeks October 2025を開催しました

10月6日から30日まで「国連の活動を通じて世界と私たちの未来を考える」をコンセプトに、「第24回上智大学国連Weeks October, 2025」が開催されました。在学生はもちろん、高校生や一般の方など国内外から毎回延べ1000人を超える方が参加する、本学を代表するイベントの一つです。期間中には、中東問題や紛争地域での心のケア、国際機関を目指す人向けのキャリアワークショップ、大阪・関西万博への国連参加報告に加え、情報通信技術が拓く新たな社会と、多彩なテーマで全5件のプログラムが展開されました。

国連創設80年、大阪・関西版万博国連参加報告

24日、国際連合(国連)の創設80周年を迎える節目に、国連事務次長補兼大阪・関西万博国連パビリオン陳列区域代表のマーヘル・ナセル氏を招いた講演会を実施しました。現在、多国間主義が危機に瀕しており、民主主義や権威主義の対立、経済的格差の拡大等に対して国際協力が与える改善の力が弱まっていると言われています。しかし、多国間主義を象徴する国連に対する期待は、国際社会の様相が大きく変化する中でも依然として大きいと言えます。本講演会では、今までの国連の軌跡を振り返り、今後、社会の変動に如何に向き合うべきかを探ることを目的として議論が行われました。

国連広報センター所長 根本かおる氏

まず、国連広報センター所長の根本かおる氏が、グテーレス国連事務総長によるビデオメッセージの紹介、および国連の役割と意義について述べました。国連という仕組みを活性化するには、加盟国が主役となって意思決定することが必要だと強調し、「グローバル化した社会において、一国だけで解決できる課題はありません。国際社会の共通利益と両立しうる形で自国の利益を模索していくという外交の場が国連であり、国連を中心とした多国間主義の強化は国益にかなうはず」と期待を述べました。

国連事務次長補兼大阪・関西万博国連パビリオン陳列区域代表 マーヘル・ナセル氏

続いてナセル氏が基調講演を行い、80年間の国連の歩みとその取り組みによる人々への影響を述べたうえで、いかに多国間主義を目指す上で国連が中心的役割を果たしたかを解説。また、UNパビリオンについて、ZONEごとに展示した意図や目的を紹介し、来場者の属性や反響に関する調査結果を公表しました。「国・地域別の人口の変化を見ると、今後新しい現実に向かうことは不可避で、多くの課題と機会が生まれるでしょう。今ほど世界で共存の必要性が強まった時代はありません。多国間主義は様々な課題に取り組む唯一の手段です」と語り、今後も国連が掲げる運営原則を軸に改革を進める意欲を示しました。

最後に、モデレーターを務めた本学国際協力人材育成センター所長で、前国連開発計画駐日代表の近藤哲生教授を交え、「国連としてどう人類の課題と向き合うか」「日本は加盟国としてどう貢献すべきか」などをテーマに、トークセッションを行いました。続く質疑応答では、対面・オンラインで合わせて約100名の参加者から、「若い世代のエンゲージメントの必要性」「国連でのキャリア」などの質問があがり、国際社会における現状の課題や希望を共に考える時間となりました。

紛争・災害後の子どもと若者の心のケア:創造的活動と国際交流を通じた平和構築の試み

30日、ウクライナ、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、日本の事例を共有しながら、紛争・災害後の子どもと若者の心のケアを考えるシンポジウムを開催しました。世界では今も紛争や災害が続き、深い心の傷を残しています。本シンポジウムでは、紛争中および紛争・災害を経験した3か国から専門家を招き、創造的活動や国際交流を通じた持続的な平和貢献の可能性を探りました。

ウクライナ・カトリック大学副学長 ドミトロ・シェレンゴフスキー教授

まず、ウクライナ・カトリック大学副学長のドミトロ・シェレンゴフスキー教授、サラエボ大学のラリサ・カスマギッチ-カフェジッチ准教授が基調講演を行いました。オンラインで登壇したシェレンゴフスキー教授は、戦争下における若者の心理社会的ニーズを説明し、大学の多層的な対応事例を紹介。「心理社会的支援は軽視されがちだが、放置すれば国の基盤が揺らぐ。子どもがトラウマを乗り越え、再生の担い手としての自覚を育むことが大学の使命である」と語りました。

サラエボ大学 ラリサ・カスマギッチ-カフェジッチ准教授

一方、カスマギッチ-カフェジッチ准教授は、母国の教育システムにおける歴史的変遷を述べたうえで、「戦争の影響は終結した後も続くからこそ、トラウマに配慮した平和教育が不可欠。教育が平和構築に果たす役割を無視することは、負の連鎖に加担すると同義だ」と、平和教育の必要性を強調しました。

続いて、創作活動の事例として、絵画・視覚芸術アーティストのムハメッド・カフェジッチ氏(ムハ氏)がこれまでの創作活動と活動指針を紹介し、アートの平和的意義を説きました。また、日本プレイセラピー協会理事で臨床心理士の本田涼子氏は、被災地で実際に行った治癒的遊び研修の様子を共有し、「子どもが安心感・安全感を持つには、創造性などの五感に働きかけ、運動や芸術、音楽など、言葉に頼らないで自身を表現できることが大事」と述べました。

さらに、本学総合人間科学部教育学科の小松太郎教授が、3国間で実施したオンライン国際交流活動の成果を報告しました。紛争や災害を経験した若者たちが直接交流し、体験の共有や感性を生かした創造的協働を通して、深い共感が生まれたと振り返りました。

最後にパネルディスカッションを実施し、「創造性の意義や育み方」「現場で役立った事例」などをテーマに実践で役立つ議論が交わされました。会場からは多角的な質問が寄せられ、小松教授が「遊びやアートは生み出す喜びを体験させ、創造性を発揮することは、未来は変えられるという希望につながる。特に、異文化接触を伴う協働学習は創造性を高め、社会や世界とつながる感覚を持てる点において重要」と総括し、盛況のうちに閉会しました。なお、会場外では、ムハ氏が上智生と共同制作した絵画が展示されました。

国連創設80年、大阪・関西版万博国連参加報告と連動した2号館1階展示企画「彼女たちから見える世界:平和のために立ち上がる女性たち」
紛争・災害後の子どもと若者の心のケアのシンポジウム会場前に飾られた、ムハ氏が上智生と共同制作した絵画「変革への夢と目標」

国連Weeksは、毎年6月(世界難民の日(6月20日)前後)と、10月(国連デー(10月24日)前後)の年2回開催しています。これからも上智大学と国際機関のネットワークを駆使し、国際機関のトップや政府関係者、第一線で活躍中の研究者などと共に、世界が直面する課題を考える場として継続していきます。

上智大学 Sophia University