5月27日の午後7時5分から、上智大学国際会議場において、玄葉 光一郎氏 (衆議院副議長、立憲民主党議員、元外務大臣)を講師にお招きした「人間の安全保障と平和構築」連続セミナーの2回目が開催されました。玄葉副議長は、上智大学の卒業生でもあります。またこの連続セミナーは、本学グローバル教育センターの東 大作教授が、2016年に本学に移籍してから毎年実施しているものです。
冒頭、本学の矢島 基美教授(上智学院人事担当理事)、安野 正士教授(グローバル教育センター長、国際関係研究所長)、青木 研教授(人間の安全保障研究所長)が挨拶を行い、本連続セミナーの意義と、玄葉衆議院副議長への謝意が述べられました。
その後、玄葉氏が、「分断の世界、日本の国家指針、そして『平和構築』」というタイトルで約1時間、講演を行いました。今年米国に訪問して、米国政府の要人と意見交換を重ねたことや、直近にメルケル元ドイツ首相と懇談されたことなども触れつつ、世界中で戦争が勃発している現状において、日本が果たす役割について語られました。
玄葉氏は、外務大臣を務めた経験なども踏まえ、日本が世界中から、平和国家として高く評価されており、尊敬されていることを、具体的な経験に触れながら強調されました。そして、トランプ氏が再び米大統領に就任し、国際的な秩序が揺れ動く中で、日本が、「法の支配」という理念を大切にし、共通のルールを世界全体で維持していくために努力を続けることが大事だと訴えました。
また、日本の安全を守るために、日米同盟はこれからも必要であり、リアリズム(現実政治)に基づいた外交の重要性を強調されました。その一方、国際秩序が危機に立つ今、日本は、力だけでなく、「なるだけルールに基づいて平和を守っていくことが重要」と力説されました。
そして、国際的に培った日本への評価や尊敬を活かし、日本が今後、ヨーロッパやASEANの国々なども含め多くの国を巻き込みながら、世界全体のルール形成に主導的な役割を果たすべきという考えを述べられました。多くの国々をまとめていくコーディネーターとしての仕事に日本人は長けており、そんな役割は国家として気概を持てば果たせるはずと強調されました。具体的には、ICJ(国際司法裁判所)の強制管轄権を認める国を広げていくことなども、日本ができる役割だと述べられました。
また人間の安全保障というのは、「人間の尊厳を守る」ことと同義であると主張されました。そして、日本のODA(政府開発支援)を支えるJICAの活動こそが日本の顔であり、玄葉氏が外務大臣の時に、それまでずっと下がり続けていたODA予算の削減を止め、それ以来、ODAの規模は維持されていることも紹介し、日本が国際的支援や協力を続ける意義を力説されました。
また日本が「グローバル・ファシリテーター」として一国では解決できないグローバル課題の解決に寄与することは、世界において信頼を得ていることが不可欠だが、日本は既にかなりの「信頼の蓄積」があり、自らも当初関わったTPP作りが成功した際も「日本がコーディネート役だったからまとまった」という国が多かったと話されました。そして、「日本人はうそをつかない」という信頼を得ているからこそ、世界におけるコーディネート役ができると強調されました。
最後に、世界中で戦争が勃発し不安定化が増す中で、少しでも平和な地域を増やしていくことが重要であり、立憲民主党が政権を獲得した場合、「平和構築」も大きな外交の柱になるだろうと述べられました。
玄葉氏の講演の後、「保護する責任」や「平和構築」などを専門とする中内政貴・本学総合グローバル学部教授が、コメントや指摘を行いました。そして、理念としては、日本がルールを形成する役割を担うというのは大賛成だが、実際に日本にその余力があるのか問いかけられました。
これに対して玄葉氏は、実際に外務大臣として多くの他国の指導者と交渉し、TPP作りになどに尽力した経験から、日本に対する期待は高く、日本政府さえその覚悟を持てれば、十分に役割を果たせると強調されました。
その後、上智大学の学生を中心に10人以上が質問を行い、玄葉衆議院副議長と、活発な議論が行われました。
セミナーの最後に東教授が、「私も以前から日本は、軍事紛争や、地球温暖化、感染症など、一国では解決できないグローバルな課題の解決に向けた『グローバル・ファシリテーター』としての役割を果たせると主張してきた。『ファシリテーター』というのは、最初から解決策を押し付けるのではなく、課題設定をして、その解決に向けて、多くの国家や国際機関、NGOs、専門家などを集め共に対話をファシリテートし、最後に多くの意見をまとめながら一つの方向を示していく、そんな役割であり、それは玄葉氏が主張された、『共通のルール作りに向けたコーディネート役』という役割と重なる部分が大きく、今日の話を聞いてとても励まされた」とセミナーをまとめました。
その後、上智大学を卒業した玄葉氏から会場の参加者に向けて、「幸せな人生を送るためには、何でもポジティブに考えることが大切です。人生には辛いことや苦しいことが何度も訪れます。でもその時「このピンチをチャンスに変えてやる」と、前向きにとらえることができれば、少なくとも幸福な人生は送れるはずです」とメッセージを送り、大きな拍手のもと、セミナーは終了しました。