優秀賞は新聞学科3年・吉田理乃さんによる「命を届ける場所~灯が消える前に~」
「地方から社会の今を見つめる」というコンセプトで放送局やケーブルテレビ、それに市民や大学生、高校生らが制作したドキュメンタリーの中から優れた作品を表彰する「第45回地方の時代映像祭」(大阪府吹田市の関西大学で開催)で、文学部新聞学科3年の吉田理乃さんの作品「命を届ける場所~灯が消える前に~」が優秀賞に選ばれました。同映像祭の「市民・学生・自治体部門」に応募があった86作品の中からの入賞です。上智大学の学生作品が入賞するのは9年連続で、入賞のうち上位にあたる優秀賞は昨年に続いて3年連続の快挙です。
作品紹介
神奈川県茅ヶ崎市の静かな住宅街に佇む、小さな「かきざわ牧場」
吉田さんの作品で取り上げられているのは、地域に寄り添い、牧場を支えてきた柿澤博さん(60)と妻の美里さん(58)、そして家族の皆さんです。柿澤さんたちは、牧場を訪れる子どもたちの“ふれあい体験”や、地元ブランドのアイスクリームの原料となる生乳の提供を通して、地域と温かな絆を築いてきました。
作品によれば、そうした営みの裏で、酪農経営を揺るがす厳しい現実が静かに進行していました。ウクライナ戦争や円安の影響によってエサ代が急騰し、生乳の売上の大半がエサ代に消えていく状況が続きます。不動産収入をつぎ込んでも赤字を解消できず、一時は設備の故障をきっかけに廃業を決意するまで追い詰められました。それでも地域住民によるクラウドファンディングの支援により、牧場はなんとか営みを続けてきました。
今年1月には、かきざわ牧場を含む市内の牧場と地元企業が協力して生まれたブランド牛乳が、初めて学校給食として子どもたちへ届けられました。
「甘い!ソフトクリームみたい!」
無邪気に喜ぶ子どもたちの姿に、博さんは「地元のものを地元の子どもたちに味わってもらう。ずっと目標にしてきたことの第一歩が実現した」と語りました。
しかし経営は依然として厳しく、機械の故障が重なりました。さらに博さんの肩を襲った腱板断裂により、体の限界も迫ります。こうした状況を受け、家族は今年6月、70年の歴史に幕を下ろす決断をしました。子どもたちに継承を求めることもできないほど、酪農は厳しい産業になっているのが現実です。
地域に根ざし、命の尊さと“食”の原点を伝えてきた小さな牧場が、静かに姿を消そうとしています。
本作品は、かきざわ牧場が地域に伝え続けた命の営みと、日本の酪農の持続可能性を問いかけるドキュメンタリーです。
テレビ局でドキュメンタリー番組のプロデューサーを務める審査員からは「牧場の厳しい経営が浮き彫りになり、意外性のある作品」と高く評価されました。
今回の受賞について吉田さんは次のようにコメントしています。
「かきざわ牧場をはじめ、制作にご協力いただいた全ての方々に感謝申し上げます。この作品が、酪農や食育について考えるきっかけになれば幸いです。」
今回の受賞作品の一覧は こちらをご覧ください。