“市民による市民のための映像祭”と呼ばれ、ドキュメンタリーやドラマやアニメなどジャンルを問わない映像作家の登竜門「東京ビデオフェスティバル2025(TVF2025)」で、文学部新聞学科の学生たちが制作した3作品がTVFアワードに入賞しました。
市民映像祭として伝統ある同コンクールは通算で47回目を迎え、国内や海外の10代の中学生から95歳のシニアまで多様な世代が95作品を応募し、うち34作品が入賞しました。同じ教育機関から3作品が入賞するのは最多の快挙です。本学から入賞した3作品は、ドキュメンタリーを制作する新聞学科のドキュメンタリー制作ゼミやテレビ制作の授業で制作されたものです。
文学部新聞学科ではテレビ局に匹敵する機材が揃った制作環境の下での実践授業を通じ、さまざまな映像作品を制作しています。東京ビデオフェスティバル2025に入賞した新聞学科生の作品は以下の通りです。
「火の島」


1993年、北海道南西沖地震が発生し、日本海に浮かぶ小さな島・奥尻島を巨大津波が襲った。それから31年。島の歴史がまた一つ節目を迎えようとしていた。過疎化と少子高齢化の一途をたどるこの島に7年前、若い家族が移住してきた。島内随一の限界集落でゲストハウスを営んでいる。利便性や効率を求めて都市部に人口が集中する時代に、なぜ離島での暮らしを選んだのか。
それを探ろうと考えて首都圏から奥尻島通いを続けた新聞学科4年の中野 美子さん。人口減少で地方自治体の財政事情が悪化して、毎年行われていた慰霊行事まで縮減されている現状を知って映像作品としてまとめました。審査員からは「現代日本が直面する過疎化や少子高齢化問題を提示し、映像の撮影や編集も20歳にしては円熟している 」と評価されました。
中野さんは今回の受賞にあたり、「制作にご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。これからも地域の小さな営みに目を向けるきっかけとなるような映像作品を制作していければと思います」と話しています。
「消えた屋台ラーメンを追って」


かつて都内の夜を彩った屋台は、再開発や厳しい衛生基準の導入で姿を消した。2024年4月、都内最後のリヤカーを引く屋台ラーメンが行政による「屋台出店禁止」の張り紙とともにJR飯田橋駅の高架下から突然姿を消した。その行方を3人の女子大生が追う。失われていく人間の温もりや、かけがえのない一杯のラーメン。便利さや清潔さを求める社会は何を失ってきたのかを問い直す。
新しい建物や清潔な環境を次々に求める現代の日本社会。一方で、猥雑なものや暗がりに潜んでいた人間同士の「温もり」を失っているのではないか。清潔志向が知らないうちに排除しているものがあるのではという問題意識で評論家の武田 砂鉄氏にもインタビュー。現代社会に対する根源的な「問い」に対し、審査員からも絶賛する声が上がっていました。
制作した新聞学科3年の3人(五百旗頭 優里さん・村松 真子さん・諸岡 風和里さん)は受賞の喜びを次のように語っています。
■五百旗頭 優里さん「この度は貴重な賞をいただき、心より感謝申し上げます。消えゆく屋台文化を追う中で見えてきた、人と人をつなぐ場の意義や、清潔さを追求する社会の在り方について考えさせられました。これからも問いを持ち続けながら、社会に問いかける作品作りをしていきたいと思います」
■村松 真子さん「このドキュメンタリーの核である屋台ラーメン雪虎が撤退したと知った時は、テーマの変更さえ考えました。手探りで情報を集め仲間と励んだ結果、このような賞をいただけたことに感謝しています。ラーメンという身近なものから背景に社会構造が見えてくるという取材体験を実践することができてとても刺激を受けました」
■諸岡 風和里さん「仲間との共同制作だからこそ実現できた作品が評価され、たいへん光栄です。この受賞を励みに、これからも映像を通じた表現を深めていきたいと思います」
「アルビノももかさんの希望の歌」

高校1年生のももかさんは『アルビノ』という難病を抱えている。歌うことが何よりも大好きな彼女のとっておきは、障がいをもつ子ともたない子が一緒に活動するコーラス“東京子どもアンサンブル”。入った当初は“見た目“を理由に受けた差別がトラウマになっていた。自分らしく生きる環境が社会を少しずつ明るくしていく─。彼女はそう願いながら歌声を響かせてくれる。
アルビノで「見た目」が違うということで普通の小学校に通っていた頃にいじめられて自分が好きになれなかった時期もあるというももかさん。コーラスに参加することで仲間が増えて自信が生まれたという経験談は多くの人を勇気づけてくれます。子供アンサンブルを客観的に描くのではなくて、ももかさんの生活をストレートに描いているところがわかりやすいと評価されました。
制作した新聞学科の3人の学生たちは受賞の喜びを次のように語っています。
■佐藤 香奈さん「全力で取り組んできたドキュメンタリー制作を、TVFアワードという形で結果に残すことができ、とても嬉しく思います。障害を持つ人の居場所や生きがいについて、今後も学びを深めていきたいです。ご協力いただいた方々に改めて感謝申し上げます」
■長谷川 明莉さん「私はももかさんに出会うまで、アルビノという病気のことを知りませんでした。きっと私と同じようにこの病気を知らない人が沢山いるかもしれない、だから1人でも多くの人に知ってもらいたいと思い、この作品を制作しました。これからも社会の中に埋もれた様々な問題に向き合っていきたいと思います」
■浪岡 野乃さん「今回このような賞をいただき、大変光栄に思います。チームのメンバー、水島先生、そして制作にご協力いただいたすべての方に心から感謝しています。この作品で1人でもアルビノについて考えていただけたら幸いです」
地域の映像コンクールでも受賞


今回、東京ビデオフェスティバルに入賞した文学部新聞学科の学生たちは地域に根差したすぐれた映像を表彰する映像祭でも表彰されています。
兵庫県の丹波篠山市で「生きる」をテーマにして毎年開催されて36回目を迎えた丹波篠山映像大賞では、中野 美子さんが制作したドキュメンタリー「まつぼっくりと牛丼」に丹波篠山市議会議長賞が贈られました。
作品は東京の中心部でサラリーマンの街と呼ばれる新橋で戦後早い時期から路上に座って“靴磨き”の仕事を続けている92歳になる女性・幸子さんの日々を密着取材したものです。サラリーマンの男性が仕事の悩みを打ち明けたりする場面は現代社会で失われがちな人間同士の温かみが伝わってきます。中野さんは、「この度の受賞、光栄に思います。映像祭にいらした丹波篠山市の皆様から『新橋に足を運びたくなった』と感想をいただけましたこと、大変嬉しく思っております」と話しています。
佐藤 香奈さん、長谷川 明莉さん、浪岡 野乃さんが制作した「アルビノももかさんの希望の歌」にはファイナリスト賞が贈られました。