ソフィア・AIリテラシーセミナーシリーズ(全6回)が開催されました

上智大学基盤教育センターが主催した「ソフィア・AIリテラシーセミナーシリーズ(全6回)」が10月10日から12月5日にかけて開催されました。シリーズを通して約1,200名の方々が参加し、大盛況のうちに終了しました。

セミナー開催の背景

このイベントは、ChatGPTをはじめとした生成AIの広まりを受けて企画されました。上智大学では、早期に試験や課題での利用に関する方針を発出し、その後もファカルティディベロップメント活動などを通して、生成AIが大学に与える影響への向き合い方を検討してきました。そのなかで、上智大学の全学共通教育を担う基盤教育センターでは、「データサイエンス領域」を中心として、生成AIの理解を深め、活用するための学びの機会を学生に提供する必要があるという意見が生まれてきました。

また本学学生についても、2023年6月に実施したアンケート調査「生成AI(ChatGPT等)に関する学生意識調査」などで、AIの技術的仕組みや最新動向、実社会における利用、倫理・法・社会的な影響、などについて非常に強い関心があることがわかりました。

基盤教育センターとして6つのテーマを検討し、学内外の専門家にご協力いただくことで、このような充実した形でセミナーシリーズを開催するに至りました。

シリーズの構成と内容

第1回は人工知能研究の第1人者である、東京大学の松原仁先生をお招きしました。人工知能研究の歴史と最新動向を踏まえた、AIの技術的発展や限界について、将棋や創作活動を例にお話しいただきました。第2回は言語学者で作家の川添愛先生にご登壇いただきました。言語学の観点から、機械の言葉と人間の言葉の違いについて説明いただき、本学学生との質疑応答にもご参加いただきました。この2回は、AIとは何か、どのような特徴があるか、専門家から学ぶ回だったといえます。

第3回、第4回は、大学の隣接領域である初等中等教育と産業界における動向を知ることで、大学での学びについて考える回でした。第3回は本学教育学科の奈須正裕先生から、学校のデジタル化によって変わりつつある初等中等教育の学びの現状とAIについて。第4回はアクセンチュア株式会社の保科学世様から、企業におけるAIの活用とリスク、「人間にしかできない仕事」の見直し、AI時代に必要なスキルについて、ご議論いただきました。

そして第5回は、本学実践宗教学研究科の佐藤啓介先生が、死者AIの観点から、死者には権利があるのか、死者をある意味で蘇らせることの倫理的な問題は何か、死者AIをグリーフケアに活用すべきか、といった論点を整理されました。そして最終回では、骨董通り法律事務所代表で弁護士の福井健策先生から、AIの生成・学習と、著作権をめぐる広範な議論の現状について、網羅的に解説していただきました。

いずれの回も、AIをめぐる技術的な革新について知るだけでなく、現在進行形で広がる多様な影響を議論の始点として、人間や人間社会の在り方について改めて考えることが求められるセミナーだったといえます。

毎回、登壇者による講演に加えて、基盤教育センター教員とのディスカッション、参加者からの質疑応答をおこないました。各回の詳細は下記ページをご参照ください。一部の回はセミナーの様子をアーカイブ配信しています。

参加者からの感想

全6回を通して、計520名もの方に参加者アンケートにご回答いただきました。セミナーシリーズ全体を通して、「内容への満足度」は平均4.57点(5点満点)、「トピックに関する新しい学び」は平均4.53点(同)となっており、高く評価いただきました。一方で、「大学での学びや意義について考える機会になったか」は平均4.24点(同)と若干低い結果となっており、継続的な検討が必要な点だといえます。

参加者からは多くのコメントもいただきました。ごく一部のみですが、抜粋してご紹介します。

「AI研究の最前線のお話しが伺えて、とても面白く、刺激的であった。[…] 将棋AIの発達が、結果的に棋士の技術を向上させる良い材料となっているというお話は、AIと人間の共存という事を考える上での良いケースなのではないかと、期待させられた。

翻訳の仕事についても、AIの訳したものを人間がチェックするという分担作業が可能となれば、それも悪い事ではないように思う。ただ、AIの翻訳力に負けない(AIのミスを正確に判断し、修正を加えられる)語学力が必要になるとすれば、寧ろ人間側の能力を上げていく事が必要になるだろう。」 (第1回 上智大学教職員)

 

「生成AIについて将来を考えるにあたって、「意味とは何なのか」などの言語の根本的な構造を理解する必要性を感じた。またその生成AIにおいて言語学の形態論や統語論、また意味論などの区分けを通して現状を知ることができました。」 (第2回 高校生)

 

「質問の中で「これだけ便利なものがあるのにどうして学習する必要があるのかと疑問に思う生徒がいるのではないのか」というのがあり、それに対するお話が印象に残りました。そもそも学校における学びとは何か、について改めて考えるきっかけになりました。」(第3回 上智大学学生)

 

「ビジネスにおける生成AIの現状を知ることができて、よかったです。講演・質疑応答にもあったように、人間と生成AIとの協業が、これからのスタンダードになっていくのだろう、面白いことが生まれるのだろうとワクワクしました。その反面、やはり「影」の部分は気がかりです。ポスト真実といわれる時代にあって、生成AIそのものではなく、人間の倫理観が問われているのだと感じました。」(第4回 上智大学同窓生)

 

「個人的にはなかなか周りの方と気軽に議論しにくいテーマだった死者AIに関して様々な質問やご意見が聞けてとても良い機会を頂きありがとうございました。皆様の前向きな議論に自分ごととしてもう一度考えました。

[…]死者AIに依存してしまい、現実を受け入れられなくなることもあるかもしれない可能性とグリーフケアになる可能性もあり、答えがでません。[死者AIに対して]自分はどう受け止めるのかも想像がつきません。

お墓より死者AIの画像の方がより身近な存在になる可能性もあり、今後どのように発展していくのかしばらくは様子をみないとわからないと思いました。亡くなった方を扱うことの難しさも学びました。」

(第5回 一般参加者)

 

「全く法の知識や、概念を知らない状況でAIと著作権について理解できたとても分かりやすい講義だった。特に生成AIを学習段階と出力段階に分けて考えるというのは法の概念だけでなく、日常でAIを理解するのに重要なものであると感じた。」(第6回 高校生)

伊呂原学務担当副学長による総括
第6回講演者の福井健策氏
柴野基盤センター長と福井氏のディスカッション

上智大学 Sophia University