システム上の課題:規制の不備から投資不足まで、廃棄物のエネルギー転換を阻む要因を解明
◆本研究の要点
● カメルーンを事例に、グローバルサウスにおける廃棄物のエネルギー転換導入の課題を検討
● 財政的な不確実性や政策・制度面の支援不足など、主要な障壁を特定
● 短期的な対策が持続可能な廃棄物管理の進展を妨げていることを解明
● 循環型経済への移行を促進するため、統合的かつ多層的な戦略へのパラダイムシフトの緊急性を強調
◆ 発表概要
上智大学大学院地球環境学研究科のNkweauseh Longfor助教を中心に、同研究科の銭 学鵬教授、香港城市大学公共国際関係学部・エネルギー環境学部のLiang Dong准教授、立命館アジア太平洋大学サステイナビリティ観光学部の須藤 智徳教授らによる研究グループは、グローバルサウスにおける廃棄物のエネルギー転換導入の推進要因と阻害要因を、カメルーンを事例に包括的に分析しました。

システムダイナミクス(因果ループ図分析を含む)と文献レビュー、現地調査、ステークホルダーインタビューを組み合わせた分析手法により、財政投資の不確実性、政策・制度の脆弱性、ステークホルダー間協働の不足、一般市民の認識の低さといった主要課題を明らかにしました。さらに、都市のクリーンキャンペーンやごみ収集体制の段階的な改善といった対症療法的な介入に依存している現状が、根本的なシステム課題の解決には至らず、結果として埋立地依存を長期化させていることも示しました。
これらの知見は、廃棄物のエネルギー転換がもつ潜在的な可能性を実現するには、統合的かつ多層的な戦略と、長期的な制度改革を伴うパラダイムシフトが必要であることを強調しています。本研究成果は『Sustainable Production and Consumption』誌において2025年6月16日にオンライン掲載されました。
◆ 研究の背景

世界は増大する廃棄物問題に直面しています。1965年以降、世界の都市固形廃棄物(MSW)排出量は6.35億トンから2016年には20億トン超へと3倍以上に増加し、2050年には35億トンに達すると予測されています。先進国では人口増加の鈍化やリサイクル体制の整備により廃棄物量が徐々に減少に転じると期待される一方、開発途上国では急速な都市化と人口増加に伴い、今後も廃棄物排出量が増え続ける見込みです。
しかし課題は廃棄物の「量」だけにとどまりません。廃棄物管理能力にも大きな格差が広がっており、多くの開発途上国は増加する廃棄物に対応するための資金、インフラ、制度的支援を十分に備えていません。その結果、無許可投棄や未規制の埋立てといった不適切処理が常態化し、周辺の水質汚染やコレラ・腸チフス・マラリア・喘息などの疾病拡大を引き起こしています。さらに、不適切な廃棄物処理は廃棄物セクターにおける温室効果ガス排出量の70%以上を占めており、今後数十年で排出量が急増すれば、カーボンニュートラル達成に向けた世界的取り組みを大きく阻害する恐れがあります。
このような中で、有望な解決策の一つとして注目されているのが廃棄物のエネルギー転換技術です。焼却、埋立ガス回収、嫌気性消化などの技術は、廃棄物をエネルギーに変換することで埋立量を削減すると同時に、安定的かつクリーンな電力を供給し、持続可能性目標の達成にも寄与します。開発途上国においても、これらの技術を導入することで2050年までに廃棄物セクターの気候インパクトを半減させる可能性があるとされています。
しかし、廃棄物のエネルギー転換導入に関しては先進国と開発途上国の間に依然として大きなギャップが存在します。先進国は先進的な技術、強力な政策、十分な資金を背景に導入をリードしているのに対し、特にサブサハラ・アフリカ諸国では移行が大きく遅れています。
本研究は、廃棄物のエネルギー転換に大きな潜在力を持ちながらも、アフリカ全域で共通する廃棄物管理課題に直面し続けるカメルーンを事例に選びました。1年間の現地調査で収集した包括的データと、システムダイナミクスに基づく独自のガバナンス重視アプローチを用い、本研究では、途上国における廃棄物のエネルギー転換導入の主要な推進要因とは何か、そしてそれらの推進要因と阻害要因はどのように相互作用し廃棄物のエネルギー転換利用の状況を形成しているのかという点について明らかにしました。
◆今後の展望
本研究は、カメルーンおよびサブサハラ・アフリカの類似地域における廃棄物のエネルギー転換ソリューションの推進に向けた基盤を築くものです。今後は、本研究の成果を基に、政策立案者や実務者、ステークホルダーが構造的障壁および主要な推進要因の両面に対応するための的確な戦略を策定できるよう支援します。具体的には、強力な政策フレームワークの整備、投資の促進、一般市民の意識向上、ステークホルダー間の協働促進に重点を置いた取り組みを進める予定です。これらの知見を活かすことで、カメルーンおよび同様の状況にある他の開発途上国は廃棄物のエネルギー転換の潜在力を最大限に引き出し、よりクリーンな都市環境の実現、持続可能なエネルギー供給、そして気候目標達成への大きな一歩を踏み出すことが期待されます。
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【本リリースの内容に関するお問合せ】
上智大学大学院 地球環境学研究科
特任助教Nkweauseh Reginald Longfor(E-mail: n-longfor-3r2@sophia.ac.jp)
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上智大学 広報グループ
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