中世の文献の翻訳過程を追い、異なる文化の出会いで何が起きたかを検証する

アントニオ・ドニャス
外国語学部イスパニア語学科
准教授

文献学を専門とする、外国語学部のアントニオ・ドニャス准教授。中世スペイン文学や、日本で布教活動を行った宣教師たちの記録を研究しています。異なる言語や文化が初めて出会う場所で、危険に立ち向かった人々の足跡から見えてくることとは?

私の専門分野は、中世・近世スペイン文学やラテン語で書かれた文献の研究です。中世という時代に惹かれ、当時の記録や本を研究するために、ラテン語や古代ギリシャ語といった古典文献学とスペイン文献学の2つを大学で専攻しました。

2つの文献学の研究に共通するテーマは、異なる2つの世界が交わった時に、どんなことが起こるかを解き明かすことです。一つの例ですが、私は博士論文で、ローマの哲学者であるボエティウスが6世紀に著した「哲学の慰め」が、14世紀から15世紀のスペインの学者たちにどのように受け止められたのかを論じました。

この頃の翻訳というのは、翻訳者の意図や文化的背景にもとづき、内容を変えたり、違う場面を加えたり、原作にある場面を削ったりすることが認められていました。私は、原文がスペイン語やカタルーニャ語に翻訳されるなかで、どのように変わっていったのかを辿りました。中世の翻訳とは、単に言語を置き換えるだけでなく、2つの文化、異なる世界観が出会うところでもあったのです。

宣教師たちを驚かせた16世紀から17世紀の日本

研究の拠点を日本に移してからは、キリスト教布教のために日本へやってきた宣教師たちの記録や本の研究にも着手しています。今は、17世紀初めにスペインから日本に来たドミニコ会の修道士、ディエゴ・コリャードによる当時の日本語や日本について書かれた著作を、英語とスペイン語に編集・翻訳するプロジェクトに取り組んでいます。

このプロジェクトには、広範な専門知識が必要です。言語だけでも、17世紀のスペイン語、ネオ・ラテン語、日常的に使われていた日本語の話し言葉、宣教師たちと日本人信徒の共通語だったポルトガル語の知識が必要です。そこで私は他の研究者とチームを組み、宣教師たちの残した書物を研究しています。

これらの書物を読むと、自分たちの文明が最も進んでいると考えていた当時のヨーロッパの人々にとって、日本と親しく接することは驚きの連続であったことが分かります。まったく異なる日本の社会や思想、さらに食文化まで、すべてが宣教師たちにとっては謎でした。

古い文献や記録を探して世界各地へ

私の研究活動は、そのほとんどが、世界中の図書館に保管されている古い記録や本に基づいています。そのため毎年、ヨーロッパの公文書館を訪れています。その成果の一例として、早稲田大学の同僚とともにマドリードの公文書館で発見した、ある文書があります。それは、1627年にスペインの宣教師が日本語で書いたもの。キリスト教への弾圧が強まった頃の状況が伝えられていました。原文の現代日本語版と英語版は、近日中に、この2か国語の序説とともに出版される予定です。

中世の文献研究では、他にも探している文書や、研究したい構想テーマが数多くあります。また、中級レベルのスペイン語学習者向けに、スペイン文学を題材にした参考書も考案中です。これからもさまざまな形で、文化の出会いをテーマに、研究を進めていきたいと考えています。

この一冊

『Lazarillo de Tormes(ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯)』
(著者不詳、Francisco Rico/編、Real Academia Española)

16世紀スペイン文学の必読書。子どもは大笑いでき、大人は深く考えさせられる作品です。主人公は貧しい弱者。人はみんな生まれた時は善人でも悪人でもなく、その後の経験や他者との関わりが人間を変えていくというお話です。

アントニオ・ドニャス

  • 外国語学部イスパニア語学科
    准教授

バレンシア大学で学士号(古典文献学、スペイン語文献学)、修士号(スペイン文学、外国語としてのスペイン語)、博士号(スペイン語文献学)を取得。バレンシア大学、リヨン高等師範学校、ウォーバーグ研究所、東京大学にて教授、研究員として従事したのち、2021年に上智大学に就任。

イスパニア語学科

※この記事の内容は、2022年11月時点のものです

上智大学 Sophia University