2019年11月22日(金)午後5時20分から、教皇フランシスコ訪日記念連続シンポジウムの3回目が、上智大学四谷キャンパス2号館17階の国際会議場で開催されました。
本学では、2019年11月末の教皇フランシスコの訪日を前に、教皇フランシスコの世界へ向けたメッセージや紛争地での取り組みなどについて、より深く学ぶことを目的にして、3回シリーズでシンポジウムや講演会を開催してきました。9月19日に開催された1回目は、イエズス会総合雑誌「チビルタ・カットリカ」の編集長で、教皇の側近といわれるアントニオ・スパダロ神父をお迎えして講演会を行いました。また10月5日に開催された2回目は、「キリスト教と国連の平和構築」と題して、佐久間勤上智学院理事長、ホアン・アイダル神学部教授、サリ・アガスティン総合グローバル学部教授、東大作グローバル教育センター教授、ジョセフ・チェノットウ駐日ローマ教皇庁大使などによるシンポジウムが開催され、教皇フランシスコの世界平和への取り組みについて活発な議論が交わされました。
最終回である3回目は、教皇が訪日される前日の11月22日、「キリスト教と持続可能な開発目標(SDGs)」をテーマに開催されました。
東教授の開会挨拶
会の冒頭、当該3回シリーズを統括し司会も行った東大作グローバル教育センター教授が、教皇フランシスコが、現場に赴き、貧しい人々や戦争の犠牲者に寄り添い、その解決のためにメッセージを出し続けていることは、カトリック教会の枠を超えた重要な意義があるはずと述べました。そして、1回目がスパダロ神父による教皇フランシスコの思想や行動についての解説であり、2回目が、教皇の平和への取り組みがテーマであったのに対し、3回目は、教皇の貧困や開発の問題への取り組みが主なテーマであることを述べました。
プテンカラム教授による講演
教皇フランシスコの活動とSDGsの関係について、SDGsの専門家であり神父でもある本学経済学部のプテンカラム・ジョンジョセフ教授が講演しました。プテンカラム教授はまず、SDGsの意義について、人類全体の目標を明確にすることで、これから私たちが何をすればよいのか、これからの人類にとって何が大切なのかが見えてくると説明しました。また、開発について考える際には、なぜ先進国と開発途上国の二分化された現在のような世界が生まれたのかについて歴史から学び、これまでの政策によって成功したことや失敗したことを考え、未来へつなげていくことが大切だと強調しました。
「開発途上国」の概念は、第二次世界大戦後の1950年代から1960年代にかけて誕生しました。開発途上国の概念も「後発開発途上国」「重債務貧困国」というように複数存在し、またその判断基準として、絶対的貧困と相対的貧困、貧困指数、貧困線、乳幼児死亡率などがあることを紹介しました。
さらに、開発のモデルや「成長」と「発展」の意味の違いを解説しつつ、開発の概念や定義の変遷について述べました。1950年代から1960年代には、開発とは経済成長、つまりモノの豊かさであるとされていましたが、徐々に「人々の選択の幅を広げるプロセス」であると考えられるようになり、教育や健康にも範囲が拡大しました。特に「経済のために人間があるのではなく、人間のために経済がある」という言葉を紹介しつつ、経済開発から人間開発への変化があったことを強調しました。
その流れの中で、2000年に国連がMDGs(ミレニアム開発目標)を掲げ、15年かけてかなり達成されたことを受けて、2015年にSDGs(持続可能な開発目標)が国連加盟国によって採択されたことを紹介しました。そして、SDGsの達成に向けて、「universality普遍性」「integration統合化」「transformation 変化」の3つが重要であることを強調しました。
最後にプテンカラム教授は、SDGsとキリスト教との関連について述べました。SDGsのゴール17のパートナーシップには教会も含まれていること。そして、カトリック教会の出してきた社会教説は、社会についてどのような立場や見解を持っているのかを、キリスト教の持つ倫理観を基に世界に表明するものであり、そうした社会教説とSDGsのゴールを対応させる大切さを語りました。
青木さんによるコメント
その後、シスターで本学大学院教育学専攻博士後期課程の青木由紀子さんが、キリスト教とSDGsの関係についてコメントしました。
青木さんは、”You must be the change you wish to see in the world.”というガンディーの言葉を紹介し、宗教がSDGs達成に関わる時のイメージとして、変える必要のある問題を外から指摘するというより、もたらしたいという変化を、まず私たち一人ひとりが生きるように促す、内面的原動力のようなものになりうると述べました。
そして、2015年に教皇フランシスコが出した、キリスト教版SDGsとも言える回勅『ラウダート・シ』の中では、「地球の叫びと貧しい人の叫びの両方に耳を傾ける」ことが重要だと述べられていることを紹介しました。
またバチカンが、SDGsに対する教会の応答として提唱した「Integral Human Development(統合的な人間開発)」という概念について、それが、SDGsの主張する経済、社会、環境など様々な側面を考慮した、人間を計画の中心においた開発計画である点を継承すると同時に、われわれの生き方・関わり、取り組みのさらなる一貫性と誠実さを求めたものであることを解説しました。また、この時の人間中心とは、人間の自己中心性ではなく、相互依存性が強調されたものであり、また、一部の人でなく全ての人の全人的側面が含まれるということにも触れました。
このような教皇フランシスコの発言と現場での活動を踏まえ、青木さんは、キリスト教がSDGsの達成に向けて、道徳的、精神的、宗教的側面において重要な役割を果たし、目標実現に向けた対話をも促進できるのではないかと述べました。
質疑応答
その後、会場から多くの質問が出されました。「日本における人間開発の課題はないのか」という問いに対して、プテンカラム教授は、「日本は豊かな国であるはずなのに、ホームレスとなってしまう人々が未だにいる。そして、日本は特に自殺の問題が深刻である。こうした状況の解決のためには人間開発が果たす役割がある」という点を強調しました。
会場には、大雨の中、150人を超える参加者がつめかけ、翌日に訪日される教皇フランシスコのへの期待を込めて、熱い議論が最後まで続きました。
このシンポジウムは、上智大学国際関係研究所が主催し、イエズス会日本管区、上智大学ソフィア会、アルゼンチン共和国大使館が後援しました。