シンポジウム「キリスト教と国連の平和構築~教皇フランシスコの南スーダンや他の平和構築への取り組み」を開催しました

2019年10月5日(土)午後1時から、国連Weeksの一環として上智大学人間の安全保障研究所が主催する教皇フランシスコ訪日記念特別シンポジウムが、上智大学四谷キャンパス2号館17階の国際会議場で開催されました(後援:イエズス会日本管区、上智大学ソフィア会、アルゼンチン共和国大使館)。

上智大学では、2019年11月末の教皇フランシスコの訪日を前に、教皇フランシスコの世界へ向けたメッセージや紛争地での取り組みなどについて、より深く学び考察することを目的にして、3回シリーズでシンポジウムや講演会を開催しています。

その2回目は「キリスト教と国連の平和構築~教皇フランシスコの南スーダンや他の平和構築への取り組み」と題し、平和構築の問題を取り上げました。教皇フランシスコが南スーダンをはじめ紛争地の平和構築のために取り組みを続けている背景には何があるのか?それは現地の紛争解決にどんな影響を与えているのか?というテーマについて教皇フランシスコの教え子であった上智大学神学部のホアン・アイダル教授、宗教と紛争の課題に取り組む上智大学総合グローバル学部のサリ・アガスティン教授、南スーダンやシリア、イラクなどで、平和構築の現地調査を続けている上智大学グローバル教育センターの東大作教授が講演しました。

佐久間理事長

佐久間勤理事長の開会挨拶

会の冒頭、上智大学の佐久間勤理事長は、教皇は英語でroman pontiffと表現され、ラテン語の称号「pontifex maximus」、つまり最高のponti-fex、橋を作る人=「橋渡し」の役割を担っており、人々や国家の間の紛争を解決し、正義と秩序を回復するという和平への仲介も教皇の重要な役割であることを説明しました。さらに、このシンポジウムが世界の平和的秩序の確立のため重要な役割を担っているローマ教皇について認識を深めるよい機会になることへの期待を述べました。

山岡神父

山岡三治神父の開会挨拶

また、イエズス会日本管区長補佐の山岡三治神父は、教皇フランシスコは人々に、「アフリカに行ってみてください」とさかんに呼びかけており、教皇本人も4度訪問していることを紹介しました。また山岡神父自身のアフリカ訪問の経験から、アフリカの若者たちは語学力が優れており、コミュニケーション能力も高いので、日本社会のみならず世界全体に対して大きな貢献ができると確信した、と述べました。そして南スーダンをはじめとしたアフリカの元気な若者たちが、さまざまな困難を乗り越えて、自分たちの平和な国を建設し、世界の平和に貢献してゆけるように願っている、と語りかけました。

アイダル教授

アイダル教授による講演

アイダル教授は、アルゼンチンで教皇フランシスコの教え子として共に過ごした経験をもとに、教皇フランシスコの平和に関する思想のルーツについて講演されました。教皇フランシスコに最も大きな影響を与えたのは、1976年から7年間続いたアルゼンチンでの内乱であり、当時アルゼンチンの管区長であった教皇フランシスコは若くして重い責任を背負っていました。教皇フランシスコの考え方、生き方はその当時から変わらず、「現実は理念に勝る」「一致は対立に勝る」「全体は部分に勝る」「時は空間に勝る」の4つの原理に基づいているとアイダル教授は述べました。

特に、「現実は理念に勝る」については、教皇フランシスコは、イデオロギーや政治家の扇動、政治運動の盛り上がりに参加することを戒め、具体的かつ現実的に人を助けるために何をすればよいかを考えてこられた、と語りました。また「一致は対立に勝る」という理念について教皇フランシスコは、「多くの人が、恐怖という詐欺にかかっている」という比喩を使って、他人に対する恐怖が、人々が対立する時の大きな要因になっていることを指摘していることを説明しました。そして、「時は空間に勝る」については、神様が人々を助けるには時間とリスクが必要であり、平和のために働きたければ、価値観を変える必要があることを説きました。そして、教皇フランシスコを批判する人々は、このリスクを忘れているのかもしれない、と述べました。

アガスティン教授

アガスティン教授による講演

アガスティン教授は、自身の宗教対立を含む紛争の研究に基づき、教皇フランシスコが南スーダンなどの平和構築に取り組む背景には何があるのか?というテーマで講演されました。教皇フランシスコの政治的及び宗教的姿勢について世界的な評判と批判がある中で、その立場はカトリック教会の第二ヴァティカン公会議の精神に忠実に基づいているとの見解を強調しました。その「政治的教皇」としての姿勢は、1. 現代社会の排他的政治情勢に対しインクルージョンを呼びかける、「インクルージョンVs 排他的」の構造;2. 積極的自由に基づく権利と消極的自由に基づく権利という二つの理念を解説し、その意味で、性的マイノリティをはじめとした「積極的自由に基づく権利を妨げない」と同時に、紛争、迫害、性暴力等で見られる、「消極的自由に基づく権利侵害を止めさせる」ためのメッセージを発信している、という2点の特徴があると説明しました。

さらに、時には批判の的となる、教皇フランシスコの様々な場所における平和のための活動は、第二ヴァティカン公会議の「現代世界憲章」の精神を実現しようとしているものだと述べました。最後に、教会内に留まらずに世界全体に目を向け、平和と諸民族の和解の促進のために福音のメッセージを伝え続けている教皇の活動をカトリックを母体とする大学としても応援したい、と熱く語り、発表を締め括りました。

東教授

東教授による講演

東教授は、自身の専門である紛争地における平和構築の研究を基に、南スーダンの紛争解決に向けた教皇フランシスコと日本が担う役割について講演されました。東教授は、自身が外務省の公務派遣で、2019年3月に南スーダンを訪問し、ジュバ大学で講演をしたり、副大統領や多くの閣僚にインタビューをして調査した内容を紹介した上で、その一か月後の2019年4月、教皇フランシスコが南スーダン内戦で軍事的衝突を続けてきたキール大統領とマシャール副大統領をバチカンに招いて二日間の対話を主催し、その最後に、二人の前に膝まずき、キスをされた様子を映像で紹介しました。そして、国民の圧倒的多数がクリスチャンである南スーダンにおいて、この教皇フランシスコの行動が、和平への大きな転機になることへの強い期待を述べました。

さらに、南スーダンの紛争解決において一番重要なのはInclusion(包摂性)であり、1.対立しているキール大統領とマシャール副大統領が互いの信頼を取り戻せるのか、2.軍を統一できるか、3.透明性のある石油の使い道の可能性、の3点が鍵となることを強調しました。

最後に、教皇フランシスコがされている活動は歴史的にも非常に意味があるが、平和を創るためには、誰か一人の力ではなく様々な人や組織の力が必要であると強調しました。そして、米国が南スーダンへの支援の熱意を失い、ヨーロッパ諸国も様子見を続けている中、支援を続けている日本は、南スーダンの和平を促進するファシリテーター(対話の促進者)としての役割を担えるのではないか、と締め括りました。

バビノ在日本アルゼンチン大使館公使とパネリスト

アイダル教授 アガスティン教授 東教授によるシンポジウム

その後、130名を超える参加者が集まった会場からは、多くの質問が出されました。また東教授がアイダル教授に対して、「南スーダンにおける紛争では、キール大統領とマシャール副大統領の両者が、相手に対する恐怖に捕らわれ、紛争が長期化しているのが、そうした時にはどのようにして恐怖を乗り越えることができるか?」と質問した際、アイダル教授は、「リスクを取って相手を信頼する人がいれば、相手も信頼したくなると思う。教皇は、その意味で、模範を示そうとされているのではないか。」と応えました。そして、「善い心で平和を求めている人はものすごい力を持っている。善と悪は同じ力ではありません。善は明らかに悪より力を持っているはずです」と強調しました。またアガスティン教授は、自身が大事にしている話として、2002年に上智大学を訪問されたトゥン・チェネレットさんの言葉を紹介し、「人間の心にも嫉妬、憎しみ、ゴシップといった沢山の地雷が埋まっている。それと同時に、人間の心には多くの花の種も埋まっている。多くの地雷を撤去して、花を咲かせるのが教育の役割なのでないか。」と、参加者に語りかけました。

チェノットウ大司教

ジョセフ・チェノットウ大司教の結びの言葉(閉会挨拶)

会の最後、駐日ローマ教皇庁大使のジョセフ・チェノットウ大司教は、「他者のために、他者とともに」をモットーとする上智大学でこのようなシンポジウムが開催されたことは、上智大学にふさわしく、素晴らしい議論の機会であった、と述べました。さらに、教皇フランシスコが若い人々に対し、「平和の職人になりなさい」と語っていることを紹介し、心の中、家族、隣人、コミュニティ、社会などあらゆる所に平和を生むためには教育が鍵となる、と強く語りました。そして、「神が聖霊を与えてくださり、その聖霊が私たちの心に神の愛を満たしてくださっている。」(ローマ人への手紙5.5)という聖書の言葉を引用され、会を締め括りました。

上智大学 Sophia University