大型車にも搭載できる、高分子電解質形燃料電池の実現を目指して

エコカーに搭載される高分子電解質形燃料電池。この電池の電解質材料として期待される機能性高分子の研究に取り組む理工学部の陸川政弘教授。材料の設計から応用までを一貫して行う研究の魅力、ものづくりの面白さとは?

原子の集まりである分子がさらにたくさんつながった巨大分子が高分子です。この高分子の構造を工夫したり、別の物質を組み合わせたりすると、水の吸水力が非常に強い高分子や、金属並みに電気を通す高分子などを作ることができます。こうした特殊な機能を持つ、機能性高分子の開発が私の研究テーマです。とくに燃料電池の材料として期待されるプロトン伝導性高分子の研究に力を入れています。

高分子電解質形燃料電池は究極のエコカーと言われる燃料電池自動車(FCV)に搭載する電池です。燃料電池自動車は水素ステーションから供給された水素が燃料電池の電解質の中でイオン化されて、電気が作られる仕組みになっています。現在、主流となっているリチウムイオン電池は質量あたりの発電性能が低く、荷物や人を載せて長い距離を走るバスやトラックなどには搭載が難しい。一方、水素を燃料に使った発電装置のため、充電時間や放電容量を気にすることがありません。耐久性の高い高分子電解質形燃料電池が実現すれば、大型車にも導入しやすくなります。

出来上がった材料の解析が、新たな材料のヒントになる

我々の研究室では、世の中に貢献できる製品の開発につなげるために、実社会でどう役に立つかをイメージしながら研究するよう指導しています。材料を作ることだけにとどまらず、実際に燃料電池を自作して、その性能を確認するところまでをすべて行っているのもこのためです。

材料合成では、「合成して終わり」ではなく、分子構造など材料の組成や反応のプロセスを明らかにしておく作業もおろそかにできません。これこそが大学の研究室が担う役割とも思っています。ものづくりを料理に例えると民間企業は料理人。お客さんのためにひたすらおいしいものを追求し続けます。それを裏で支え、なぜおいしくできたのかを詳しく解析するのが私たち研究者の仕事。おいしさの理由が明確になれば、新たな料理を生み出しやすくなります。

できると信じて考え続けることが、何より大事

一つの材料を作り上げ、解析するまでには平均して3年ほどかかります。設計通りにできても、出来上がったものが予想よりはるかに微量であったなど、思い通りにならないことも多くあります。しかし、できると信じて常に考え続けることが何よりも大事です。うまくいかないときほど、できない理由を考えがちなので、常に意識するようにしています。困難を経て思い通りの結果が得られたときは、大変な爽快感を得られます。これが研究の面白さでもありますが、ものづくりが好きな人に共通する感覚ではないでしょうか。

現在、私たちが手掛ける燃料電池は、国や企業との共同研究に入っている段階で、やりがいとともに大きな責任も感じています。高性能な高分子電解質形燃料電池が普及し、多くの大型自動車に搭載されればCO2の排出の削減につながります。そこを目指してひたすら研究に取り組んでいきたいですね。

私の研究室では人工臓器の材料となる生体適合性の高い機能性高分子の開発など、並行して取り組んでいるテーマがほかにも複数あります。こうした研究を通じて、ものづくりの楽しさを若い人たちにもっと伝えていきたい。こちらも、日本の将来のためにやらなければいけない使命と考えています。

この一冊

『星を継ぐもの』
(ジェイムズ・P・ホーガン/著、 池 央耿/訳 東京創元社)

大学生のときに読んだSFです。この本に限らずSFの面白さは10年後、20年後の世界を予見できていることだと思います。現在、話題になっている自己修復材料も当時のSF本に出ています。SFには何かあるな、侮れないな……。そんな視点で今もよく読んでいます。

陸川 政弘

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授

上智大学理工学部化学科卒、上智大学大学院理工学研究科博士前期課程修了。1985年日立化成工業株式会社入社、1989年マサチューセッツ工科大学客員研究員、1992年上智大学理工学部化学科助手、同講師、同助教授、同教授を経て、2008年より現職。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2023年6月時点のものです

上智大学 Sophia University