専門はナノサイズのモノをつくるテクノロジー、半導体微細加工。ナノテクを駆使したさまざまな研究の1つとして,見えない星を観測する光学用フィルターをJAXAと共同研究している理工学部の中岡俊裕教授。宇宙の謎を解き明かす鍵となるナノテク研究とは?
宇宙の星や惑星の形成過程というのは、まだよく解明されていない分野です。その解明の鍵を握る1つが、赤外線天文学です。目に見える可視光線より波長の長い赤外線による宇宙の観測方法です。JAXAの赤外線グループとの共同研究として、赤外線による天文観測で今、必要とされている光学素子の開発に携わっています。
一般的に光学素子とは、カメラやプロジェクターなどの光学機器に取り付けられたレンズやフィルター、ミラーなどのことですが、開発に取り組んでいる光学素子は、宇宙に存在する星に関する情報を得るための光学用フィルターです。
星の形成過程を探るためには、活発な星形成が起きている銀河などの観察が必要です。しかし、若く高温の星から出た紫外線は宇宙の塵に吸収されてしまってよく見えない。ところが、この紫外線で温められた塵からは赤外線が放射されているため、赤外線観測であれば観測可能というわけです。
赤外線天文学で期待されているのは、これまで見えなかった光の領域の観測です。赤外線の放射として観測可能な領域の光をうまく集光できるか、また、狙った光だけをうまく取り出せるどうか。それを可能にする光学フィルターの開発に挑戦しています。私の専門は小さいものを作るナノテクですが、うまくいけば、星の誕生など、未解明だった宇宙の謎をひもとくことにも貢献できるかもしれません。
ナノテク技術のトランジスタによって高性能を実現
光学素子の開発に応用しているのは、小さいモノをつくるテクノロジーです。パソコンやスマートフォンの中核になる素子をトランジスタといいますが、これが今、ナノサイズまで極小化しています。その極小化を可能にする半導体微細加工技術を使って面白い物理現象を観測したり、新しい素子へ応用したりすることが私の専門で、この技術を光学素子の開発にも役立てています。
研究は予想外の発見、セレンディピティが面白い
私たちの研究の手法は基本的にモノ作りです。理論的に計算をして特性を予測し、実際の実験とコンピューターシミュレーションとの比較もしますが、やはり、実際にモノを作ることを重要視しています。光学素子の研究ではJAXAまで出向き、半導体微細加工を施せるクリーンルームで作業をしています。本学の実験室でも作業があり、学生たちはJAXAと本学を行き来して素子を作製しています。
研究は、予想を立てて実験しその通りになるというのももちろん大事ですが、とくに面白いと思うのは予想外の発見、つまりセレンディピティと呼ばれるもの。予想に反する特性が出てきて、「なぜそうなるのか」を探求する。期待通りじゃないからこそ、それが学びになる。この自由度の高さこそ大学での研究の醍醐味です。今、開発している光学素子もセレンディピティに端を発する研究です。
光物性や半導体微細加工の研究を続けてきて、子どものころに憧れていた天文学の分野に今こうしてつながったのもセレンディピティ。セレンディピティをつなぎながら面白い研究をして、それが将来的に世の中のためになれば、こんなにいいことはないと思います。
この一冊
『星空の狩人』
(関つとむ/著 筑摩書房)
小学校5年生頃に出会った本です。自作の望遠鏡で彗星探索するアマチュア天文学者の話。ここから天文学に非常に興味が湧いて、光に関係する研究に進み、JAXAと共同研究する未来にもつながっています。その原点といえる一冊です。
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中岡 俊裕
- 理工学部機能創造理工学科
教授
- 理工学部機能創造理工学科
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大阪大学理学部物理学科卒、理学研究科博士後期課程修了。博士(理学)。東京大学生産技術研究所特任助手、科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者、上智大学理工学部准教授などを経て、2017年より現職。
- 機能創造理工学科
※この記事の内容は、2022年6月時点のものです