「言葉の壁」に負けず、在日ブラジル人の子どもが夢を抱ける社会を目指して

外国語学部ポルトガル語学科 
准教授 
ニウタ・ジアス

外国語学部のニウタ・ジアス准教授は、在日ブラジル人の子どもの教育問題について研究しています。彼らの多くが直面する言葉の壁、そして言葉の違いが原因で起こる学習面、進学面での問題について語っています。

私の母国であるブラジルは、日本と長年に渡り友好的な関係を築いてきました。現在、日本で暮らすブラジル人は約20万人。30万人を超えていた時代と比較すれば少なくなったとは言え、国内の外国人コミュニティーとしては、中国人、ベトナム人、韓国人、フィリピン人に次ぐ大きさです。

私の研究テーマは「在日ブラジル人の子どもの教育」です。ブラジルからの移民が急激に増えた1990年から2000年にかけては、学校に通わず、家で内職などをして過ごす子どもの存在が大きな問題になっていました。近年はこういった不就学の子どもは減ったものの、ブラジル人の子どもの学校生活や学習にまつわる課題は依然残されています。

通訳では不十分。学習の遅れで、大学進学は困難に

ブラジル人の子どもが地元の公立校に通う場合、最も苦労するのはやはり言葉です。最近は外国人の子どものために通訳のサポートを提供する学校もありますが、授業の内容によってはただ言葉を訳すだけでは足りず、質問に答えたり、子どもの理解度に合わせて説明の仕方を変えたり、より細やかな対応が必要になります。

しかし、通訳の方にこのような役割を求めるのは無理がありますし、日本語とポルトガル語の両方が堪能な教員を見つけるのも容易ではありません。授業が理解できず、フォローも受けることが出来なければ、勉強の遅れは学年が上がるごとに大きくなる一方です。また、時間が経って日本語が上達すると、今度はポルトガル語しか話せない親とのコミュニケーションがうまくいかず、思春期の悩みが打ち明けられない、進路の相談ができないといった問題も生まれます。日本の学校で勉強についていけずポルトガル語も中途半端にしか話せなければ、大学への進学も困難です。

夢を持った子どもは、困難を乗り越え学び続ける

研究の中では、ブラジル人家庭への聞き取り調査や子どもたちの進学・進路に関する調査を行なっています。高校生の中には、家計が苦しいため、アルバイトをして学費を貯めてから大学へ進みたいと話す子も多いのですが、近年の調査では、一度働き始めた子どもがその後大学に進学にするケースはほとんどないことがわかりました。残業などで高額の賃金が得られると、現状に満足して学びへの興味や意欲が薄れてしまうのです。その一方で、大学で勉強したいことや将来就きたい職業がはっきりしている子どもは、困難があっても乗り越えて目標達成に向けた学びを継続していることも明らかになっています。研究を通じて夢を持つ子どもの強さを知ることができたのは、私自身にとって大きな励みにもなりました。

かつては一定期間日本で働いた後帰国する人もたくさんいましたが、近年は日本に永住し、会社員、起業家、弁護士などさまざまな分野で活躍するブラジル人が増えています。在日ブラジル人の問題は、ブラジル人の問題であると同時に、同じ社会で共に生きる日本人の問題でもあるのです。在日ブラジル人の子どもがそれぞれの夢を実現できる社会を作るために、そしてより多くの日本人に在日ブラジル人の生活やそこにあるさまざまな問題について知ってもらうために、これからも研究を続けていきたいと思います。

この一冊

『ニューカマーと教育―学校文化とエスニシティの葛藤をめぐって』
(志水宏吉、清水睦美/著 明石書店)

日本で暮らす外国人の子どもの教育問題について、さまざまな事例や調査結果を紹介した本。20年以上前の本ですが、今も問題の本質は変わっていません。日本に留学していた時に、漢字に苦労しながら読んだ思い出の一冊です。

ニウタ・ジアス

  • 外国語学部ポルトガル語学科 
    准教授

ニュートン・パイヴァ・フェレイラ文化学院卒業、ベロオリゾンテ哲学・人文学・文学大学大学院(教育専攻)修了後、山梨大学大学院教育学研究科修士課程(文部科学省奨学生)修了。2010年より現職。

ポルトガル語学科

※この記事の内容は、2023年10月時点のものです

上智大学 Sophia University