企業の成長につながる組織間関係について、経営学の視点から探る

経済学部経営学科
教授
小阪 玄次郎

自動車業界の系列取引のあり方など、組織間関係をテーマとして研究に取り組んでいる経済学部の小阪玄次郎教授。企業という身近な存在を対象に、社会学や心理学の領域にも広げられる、間口の広い経営学の面白さについて語ります。

経営学は企業をはじめとする組織をいかに効率的にマネジメントするかを解明する学問です。私はメーカーと部品会社など、企業間関係の視点から経営学を研究しており、最近は自動車産業とクラウドファンディングの二つのテーマに力を入れています。

自動車産業では、系列(ケイレツ)と言って、自動車メーカーを頂点に、深い関わりを持つ部品会社と取引をする協調的な企業間関係が知られています。系列では、部品を系列内のメーカーに長期継続的に発注したり、新規開発も共同で進めることで、優れた品質や納期の安定を実現してきました。

一方、近年は地震などの災害や戦争、疫病など、大きな外的ショックがあった際の企業の対応力や回復力である「レジリエンス」が注目されています。そこで私は東日本大震災を事例として、トヨタ自動車と取引のある自動車部品メーカー約200社を対象に、系列メーカーと非系列メーカーに分けて、レジリエンスを比較する調査を行いました。

外的ショックに対応できる企業の力が注目されている

研究では部品メーカーの生産量などを調べ、震災前後でシェアの変化を比較。その結果、系列メーカー群のほうがトヨタとの取引量やシェアの維持・向上ができていた。すなわち、レジリエンスが高いことが分かりました。さらに、系列メーカーでも、トヨタ以外にも複数の企業と取引をしているメーカーのほうが、レジリエンスが高いことが分かりました。このことは、系列といっても、自動車メーカーとの協調一辺倒ではなく、特定の取引相手に依存せずに、いわば緊張感を欠いた馴れ合いの関係にならないようにバランスをとることの大事さを示唆するものです。

クラウドファンディングの研究については、プラットフォーム事業者やプロジェクト実行者を対象に30件ほどのインタビュー調査を行いました。クラウドファンディングでは、プロジェクトの社会性を訴求する方が支援者を集めやすいという傾向がこれまでの研究で示されています。一方で、プラットフォーム事業者は株式会社なので、営利性を考える必要があります。そこで、プロジェクトを実行する人たちやそれを支援する人たちが求める社会性と、プラットフォーム事業者としての営利性とがどう両立されているのかを探る研究をしています。ここまでのところ、プラットフォーム事業者の組織設計の工夫や、プロジェクト内容のアレンジを通じて両立がなされていることが確認できています。

協調と競争、営利性と社会性、というように、経営の本質には、相反する要素のバランスを取り続ける難しさがあるのではないか、と思っています。経営学の研究が、こうした経営上の課題の解決に役に立つことがあればうれしく思います。

経営学は身近で、好きなテーマを見つけやすい

研究で扱う企業や組織のデータは社外秘のものも多く、ほしい資料が手に入らないことが珍しくありません。また、インタビューした内容には注意深い扱いが必要で、調査結果を公開できないこともあります。それでも、もがきながら調査を続けて、思い描いていた仮説が裏付けられたり、既存の経営理論の更新につながる知見が得られたときには、大きな喜びを感じます。

現代は、企業活動の産物である製品やサービスにあふれ、また、たくさんの人が企業で働いています。企業を研究する経営学は、私たちにとってとても身近な学問なのです。さらに、経営学の理論は、経済学や心理学、社会学から派生しており、分析のうえで幅広いアプローチが可能です。興味を持ってもらえるテーマが誰でもきっと見つかると思います。

この一冊

『マネジャーの実像』
(ヘンリー・ミンツバーグ/著 池村千秋/訳 日経BP社)

著者は斬新な学説を打ち出す異色の経営学者。この本では、著者が多くの管理職に会い、生まれ育ちも含めた資料から、管理職の実像を明らかにしています。経営学研究が、管理職の現実の悩みや苦労に寄り添い、実務の役に立つものである必要性をいつも思い返させてくれる本です。

小阪 玄次郎

  • 経済学部経営学科
    教授

一橋大学社会学部卒、一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。茨城大学人文学部専任講師、上智大学経済学部助教、准教授を経て、2021年より現職。この間、ベルリン自由大学でも客員研究員として研究に従事。

経営学科

※この記事の内容は、2023年8月時点のものです

上智大学 Sophia University