貴金属ナノ粒子の光学特性や触媒能力を活用し、医療や環境浄化に貢献したい

理工学部物質生命理工学科 
准教授 
横田 幸恵

理工学部の横田幸恵准教授は、貴金属をナノレベルで制御する技術を用いて、今までにない機能を持った材料の開発を目指しています。幅広い分野への活用が期待されている貴金属ナノ粒子の可能性とは?

私は貴金属ナノ粒子について研究しています。貴金属の金は金色、銀は銀色というイメージがありますが、これらをナノメートル(1メートルの10億分の1)レベルまで小さくすると色が変わり、例えば金ナノ粒子は赤色、銀ナノ粒子は緑色に見えます。貴金属ナノ粒子は古くから利用されていて、ヨーロッパのステンドグラスの赤色や江戸切子の金赤には金ナノ粒子が使われています。

ところが、ナノメートルは髪の毛の太さの10万分の1という非常に小さな世界ですから、身近な素材であっても金ナノ粒子がなぜ赤色なのかは長らく解明できませんでした。半導体技術が進んだことで、貴金属ナノ粒子を観察し、どのように形成されているのか分析できるようになり、ナノ粒子の研究も飛躍的に進みました。

抗原検査にも金ナノ粒子が使われている

貴金属のナノ化で変化した色は身近なところでも利用されています。

例えば、インフルエンザや新型コロナ感染症に罹患したかどうかを調べる抗原検査には金ナノ粒子が使われています。抗原検査では、検体を検査キットに滴下して赤い線が出ると陽性と判断されますが、あの赤色は金ナノ粒子由来のものです。

ウイルスをキャッチする機能を持たせた金ナノ粒子が、抗原(ウイルスが持つ特有のタンパク質)をつかまえて、抗体(ウイルスに反応するタンパク質)を固定した判定部位に集まると赤線が浮かび上がるのです。

この抗原検査では、残念ながら発熱直後は陰性になる可能性が高く、迅速さが求められています。貴金属はナノ化で特定の光機能を持たせる研究が進んでおり、我々も新しい機能を利用した早期検査チップの研究を行っています。

貴金属ナノ粒子光触媒で工業廃水を浄化する

現在、金ナノ粒子を光触媒にする研究に注力しています。光触媒とは、光のエネルギーによって化学反応を促進する材料のこと。実用化されている光触媒の多くは酸化チタンですが、酸化チタン光触媒は主に紫外線に作用します。

一方で、金ナノ粒子は表面にある自由電子が特定の波長の光と共振し、光エネルギーの吸収や散乱を引き起こす性質があります。こうした性質を応用し、金ナノ粒子を光触媒とすることで可視光線や赤外線、LEDのような弱い光エネルギーでも化学反応を起こせないかと考えています。試作段階ですが、金ナノ粒子のある状況下で工業廃水のような色のついた水をLEDの光で分解し、無色化する実験に取り組んでいます。

この方法で水質浄化ができれば、紫外線と違ってプラント内で作業しやすいですし、触媒自体は変化しないので利用後に回収して何度でもリサイクルして使えるというメリットもあります。

ナノ粒子の作り方には、貴金属を削るトップダウン法と貴金属の原子を組み合わせるボトムアップ法があり、私はボトムアップ法で固体や液体を混ぜてナノ粒子を化学合成しています。

手を動かして実験することが好きで、日々トライアンドエラーの繰り返し。予想と違う結果になってもそこから新たな可能性が見えてくるのが研究の醍醐味ですね。今後の目標は、貴金属ナノ粒子光触媒による水質浄化を実現すること。そして将来的には、薬の副作用に悩む人たちの血液分析など、貴金属ナノ粒子を使った微量分析技術で医療に貢献したいと考えています。

この一冊

『銀の海 金の大地』
(氷室冴子/著 集英社オレンジ文庫)

中高生の頃、愛読していたファンタジー小説。地方出身の私は、女の子が自由に羽ばたこうとするとブロックされる風潮にモヤモヤしていて、困難を乗り越えていく女性主人公の姿に「こんなに自由に動いていいんだ」と勇気づけられました。好きな学問を追究する後押しをしてくれた一冊です。

横田 幸恵

  • 理工学部物質生命理工学科 
    准教授

徳島大学薬学部製薬化学科卒、北海道大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了。博士(情報)。日本学術振興会特別研究員DC2、日本学術振興会特別研究員PD、理化学研究所特別研究員、東京理科大学理学部第一部化学科助教、上智大学理工学部助教などを経て、2025年より現職。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2025年6月時点のものです

上智大学 Sophia University