経験や勘のみに頼らず、データに基づく教育改善を進める上智大学に、新たな指標が加わりました。「教育課程・学修成果10指標」の内容、全学および各学科で進む活用の動きについて、学務担当副学長が語ります。
直接評価により、教育の概況と成果を知る
上智大学ではこの数年、教育の質を測定し、高める取り組みに力を入れてきました。特に、卒業時に身につけているべき能力を規定したDP(ディプロマ・ポリシー。学位授与の方針)を「社会との約束」と捉え、全学生の達成を保証しようとしています。
まずは、各学科が開講している科目で本当にDPを達成できるのか、カリキュラムを点検。2019年から2022年にかけて、各科目とDPとの対応を示すカリキュラムマップや科目の難易度を含めてカリキュラムマップを図式化したカリキュラムツリーを整えました。次に、DP達成に寄与する授業を提供できているか、自身はDPを達成した実感を得ているのか、学生視点による間接評価(主観評価)を開始。2022年から、全学共通の形で授業アンケートと学生調査を実施しています。
これらに続いて開発したのが、「教育課程・学修成果10指標」です。その名のとおり、10種類の指標を用いた直接評価(客観評価)によって、教育の実施状況、その成果としての学生の成績を多面的に分析するものです。
本学はそれまでも直接評価としてGPAを、日本の大学としては早い2000年代から全学に導入し、入試制度の設計などに活用してきました。質保証運営会議が2022年6月に発足させた「GPA分科会」が、教育の質と精度の向上に役立てるGPAの活用法を検討した結果、GPAだけにとどまらない10指標の開発に至りました。
わかりやすく、「使える」指標であることが第一
「教育課程・学修成果10指標」は次の内容となっています。
指標1 修得単位数
指標2 平均登録単位数/平均修得単位数
指標3 認定学年別GPA
指標4 自学科開講科目のGPA分布
指標5 自学科開講科目数と必修選択区分毎のGPA
指標6 ナンバリング毎の科目数とレベル毎のGPA
指標7 全学共通科目と学科科目のGPA散布図
指標8 DP別科目数
指標9 DP別修得単位数
指標10 DP別GPA平均
集計のタイミングは卒業時。その学年が4年間、どのように学んできたのかを把握するデータとして、全学、学部別、学科別に算出しています。
例えば「指標1 修得単位数」では、1、2年次に上限いっぱいまで修得し、3年次には修得単位数が若干減少し、4年次にはかなりの余裕を持たせている学生が多いことがわかりました。1、2年次はじっくり学べていない学生もいるであろうことが想像されます。
「指標8 DP別科目数」は、仮にDPが5つある学科であれば、DP1~5の達成に寄与する科目がいくつずつあるかを示します。紐づく科目が極端に少ないDPがあれば、学生はそのDPの達成が困難です。全DPを無理なく達成できるよう、開講科目の調整、あるいはDPの再設定を行う必要があると言えます。
「指標9 DP別修得単位数」は、学生がそれぞれのDPをどの学年で何単位分履修して身に付けたかの平均を示します。もし特定の学年に偏ったDPがあるならば、他の学年にもそのDPの能力を高める科目を配置する必要が出てきます。
「指標10 DP別GPA平均」では、DPごとに、そのDPに紐づく科目の平均GPAを算出します。DP間で差が大きければ、成績評価の基準、あるいはDPごとの達成難易度が一定していないかもしれません。中央値やデータのバラつきがひと目でわかる、箱ひげ図で結果を表示しています。
指標の設定、結果の表し方については、「とにかくわかりやすく」を合言葉に、検討に時間を割きました。多様な指標のアイデアを、どの学部・学科にとっても役立つと考えられる10種類に厳選。統計用語や専門的な計算手法はなるべく使わず、何をどのように集計したのか、誰が見ても瞬時にわかる、シンプルな内容、ビジュアルをめざしました。
3つのポリシーの見直し議論が活性化
2023年2月に、2018年度入学生のデータを算出したのを皮切りに、現在、2020年度入学生までの3か年分を学内で共有済みです。
10指標は、各学科が実施する教学アセスメント(学科単位の自己点検評価)に欠かせないデータになりました。また現在、各学科は2027年度に向けて、3つのポリシーの見直し、それに伴うカリキュラムの改訂を行っています。10指標は、この一連の見直しの議論のタネとして活用されています。DPを扱った指標8~10はもちろん、想定している学生が入学しているのかを分析すればAP(アドミッション・ポリシー。入学者受入の方針)の見直しに、学年別の科目数や修得単位数などはCP(カリキュラム・ポリシー。教育課程編成・実施の方針)の見直しに直結するエビデンスとなっています。
全学の動きとしても、「深い学びと単位実質化のための施策検討分科会」を設置し、1、2年次の修得上限単位の引き下げを検討。各学部に案を投げかけ議論を進めてもらっており、すでに見直しを検討している学科もあります。
現在の10指標は各学部・学科が提供する専門科目を対象としていますが、今後は全学共通科目に焦点を当てた分析も視野に入れています。全学共通科目は2022年度にリニューアルしており、指標による分析は、上智大学の教育改革の進捗を検証する材料になるでしょう。
上智大学では、DPをはじめとする教育目標を、単に言葉として掲げるだけでなく、直接評価、間接評価を織り交ぜて検証し、実質化を図っています。「教育の上智」の充実に、今後もご期待ください。