全新入生必修の入学前準備科目「学びを学ぶ」とは

学務担当副学長
理工学部情報理工学科 教授
伊呂原 隆

高校の補習ではなく、大学や社会における学びの意義を知り、自らの学びをデザインするスキルを身につける、上智大学の画期的な入学前準備科目が始まりました。2022年度から全入学者が履修している「学びを学ぶ」について、学務担当副学長が語ります。

上智の学びを知らずして、履修科目は選べない

2022年度から始まった「学びを学ぶ」は、上智大学への入学者全員が履修する、入学前準備科目です。大学で学ぶとは、上智大学で学ぶ意義とは。高校までの学びとの違いとは。全11回のオンデマンド動画を通して4年間の学生生活、さらにその先のキャリアをイメージし、入学に備えます。

2021年度までの新入生は、入学後のおよそ10日間で履修科目を選択していました。学びの方向を見定めるには期間が短く、各科目の意義がわからないまま登録する人も出てきます。結果、「授業に対するモチベーションが上がらない」「2年次以降も選択基準が曖昧なまま履修科目を決める」「いろいろな学びの機会があることに、上級学年になってから気付く」といったケースが生まれていました。そこで、全ての学生が入学前にカリキュラムの全体像を把握し、上智大学の教育プログラムをフル活用できるようにと導入したのが「学びを学ぶ」です。

先輩たちが語る、4年間の成功と後悔

全11回の授業は、各回15~20分程度の動画と小テストで構成されています。前半で上智大学の理念や歴史を知り、中盤から後半にかけては、カリキュラムのコンセプト、留学をはじめとする授業以外の学びの機会、キャリア形成と科目履修のデザインなどについて学修。最後に改めて上智大学の教育精神に立ち戻ります。入学前教育によく見られる、リメディアル(高校までに習った内容の補習)の要素は一切ありません。

動画には、学生、卒業生、教職員など、計数十人が登場します。輝かしい成功体験だけでなく、失敗談、そこから得られた教訓も話してもらいました。

ある学生は、先輩や友人が勧めるまま科目を履修し、興味とは異なるものばかりになったと反省の弁を口にします。卒業生の一人は在学中のフィリピン留学で、苦痛や悲愴感しかないと思っていた「貧困」の現場を訪れたところ、子どもたちのキラキラした笑顔に出会い、イメージを覆された経験を披露。食品会社でSDGs関連の業務に就くきっかけになったと語ってくれました。

今も同じキャンパスで学ぶ先輩、つい数年前まで在籍していた先輩が語る実体験は、新入生にとってリアリティ十分。学びを自分事としてとらえる効果があるでしょう。

授業終盤に、総仕上げとしてレポートを課しています。上智大学の精神や、自身の4年間の学び方について考える内容になっており、レポートへの取り組み自体が、入学に向けた心構えを形成します。提出して終わりではなく、入学後の必修科目「キリスト教人間学『他者のために、他者とともに』」におけるグループワークでも活用。また現在は、2022年度に導入した「セルフ学修ポートフォリオ」にレポートが記録されるしくみが整い、2年次以降も随時、入学前に思い描いた4年間の学び方と、実際に履修してきた科目を振り返ることができます。

姿勢も、意欲も。新入生が、変わった

未受講時のペナルティがないにもかかわらず、実施1年目はレポート提出率97%と、ほぼ全員が完走してくれました。受講後アンケートでは、理解度、満足度とも平均が5点満点中4点を大きく上回り、「他学科の科目や全学共通科目への関心が増した」「自分の関心に従ってチャレンジすることの大切さがわかった」といった声が挙がっています。

何より私たち教員が、過去の新入生との違いに驚かされました。「キリスト教人間学」を担当した教員らは口々に「学生が明らかに変わった」「目的意識を持って、意欲的に学ぶ姿勢が窺える」と言います。これまでは授業内で教えていた上智の歴史やアイデンティティを入学前に学んでいるので、問いを立てて思索する、より深みのある授業ができるようになりました。受講した学生たちがどのように変容していくか、今後の成長が楽しみです。

「学び」は大学で終わりではありません。「学びを学ぶ」を含む全学共通教育改革の狙いは、生涯を通して学ぶ基盤を身につけること。大学としても、産学協働で創り上げる社会人向け講座「プロフェッショナル・スタディーズ」や、データサイエンスとビジネス展開力を身につける「応用データサイエンス学位プログラム(修士課程)」(2023年4月開設)など、卒業後にも学びの機会を多数用意しています。

これからも上智の入学者にとって「学びを学ぶ」は、長きにわたって自律的に学び続ける人生の、第一歩になるはずです。

上智大学 Sophia University