基盤教育は、4年間をかけて「生涯学び続ける力」を形づくる、上智大学の教育のコンセプト。導入3年目を迎え、いよいよ真価を発揮し始めます。その教育のしくみを、学務担当副学長が語ります。
併せて学ぶことで得られる相乗効果
およそ4年間の検討を経て、2022年度に導入された「基盤教育」。2023年度末の現時点では、2年生までがこのしくみの下で学んでいます。
VUCAと呼ばれる、未来の予測が難しい現代。社会の様相は激しく移り変わり、学生時代に学んだ知識はいずれ通用しなくなります。卒業後も学び続けるために、自律的な学修者の姿勢を身に付けることが、基盤教育の目的です。
基盤教育は、専用の科目があるわけではなく、上智大学が提供する全ての科目を通じて行われます。多角的な視野を得る「全学共通科目」、専門分野を深める「学科科目」、外国語や異文化を理解する「語学科目」。学生は4年間をかけて、これら3種の科目の組み合わせを自分なりにデザインし、行き来しながら学ぶことにより、自身の「基盤」を確立していきます。
中でも特徴的なのが、全学共通科目です。いろいろな分野の入門レベルの科目というイメージがあるかもしれませんが、基盤教育の実現にあたり、科目ナンバリング(科目の水準や系統を示す番号)で言う100番台(導入レベル)から、200番台(展開レベル)、300/400番台(探究・統合レベル)の科目まで用意しました。専門性を深めた3、4年次においても、それにふさわしいレベルの人間理解、思考様式、教養等を全学共通科目で学ぶのです。 たとえば、全学共通科目の300/400番台の科目に「交渉学入門」があります。この科目で学ぶ、相手を引き込む手法は、経済学部生であれば企業間連携の研究に、総合グローバル学部生であれば国際紛争の解決手法の研究に生かせるでしょう。同様に300/400番台の「データサイエンス」科目で実践的な分析手法を学べば、文系学部生でも自身の研究で数理的なアプローチが可能になります。
先輩たちの実体験を参考に、自身の学びをデザイン
こうした学び方は、高校はもとより、他大学にもおそらく例がなく、そのコンセプトや履修の考え方を、学生にしっかりと理解してもらう必要があります。そこで、基盤教育の導入として入学前教育「学びを学ぶ」を開始しました。文系/理系、教養/専門、自学科/他学科といった枠にとらわれず、その人ならではの学びの広げ方、深め方をデザインする上智ならではのしくみを、入学者全員にレクチャーしています。
さらに、2024年4月には、基盤教育の趣旨を説明し、自律的な学びを促すための冊子「学びの手引き」をリリースしました。履修登録に際して、全学共通科目を選択する際にはどんな考え方があるのか、専門科目や語学科目とどのような連携した学びができるのか。全学共通科目を教授する教員の経験談や、高学年向け全学共通科目を履修した先輩学生からのアドバイスを、科目選択の参考にしてもらう内容です。
ここでの、学生の実例を紹介しましょう。文学部のある学生は、学科でテキストデータを使った日本語の構造解析を研究しつつ、全学共通科目でAIの基礎を履修。AIの一分野である自然言語処理の知見が得られ、研究テーマに深みがもたらされたと言います。
また、外国語学部のある学生は、全学共通科目の「日本外交政策入門」で聞いた現役外交官の話に刺激を受け、海外インターンシップに挑戦。国際的な舞台で働く夢をより強く抱くようになったと言います。今後はアフリカ地域の知見をさらに深めるとともに、特定の宗教に係る授業の履修を考えているそうです。学びが学びを呼び、入学当初には思ってもみなかったところにたどり着くこのような展開もまた、自身で学びの方向性を決める基盤教育の醍醐味だと言えるでしょう。
学問分野を問わない多彩な科目を選択肢として自らの学びをデザインできるのは、9学部10研究科がワンキャンパスに集まる上智大学だからこそ。物事を様々な角度から見る、多面的な価値観が身に付けられます。「人生100年時代」において、学生時代はまだ序盤に過ぎません。大学をゴールと捉えるのではなく、長きにわたる人生の基盤をつくる成長の場と捉えるならば、上智大学には、それにふさわしい最上の環境が整えられています。