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上智大学と株式会社ニトリが子ども目線のランドセル開発を目的に共同研究を実施

グッドデザイン賞受賞のランドセルは「背中の気持ちよさ」と「走りやすさ」がポイント

上智大学と株式会社ニトリ(本社:札幌市北区、代表取締役社長:白井俊之 以下:ニトリ)は、およそ2年の研究期間を通じて「子どもにとって快適なランドセル」の開発に関する共同研究を実施しました。本研究は、子供の主観で快適で且つ身体負荷の軽減が見込まれるランドセルの開発を目的としたものです。

今般、当該共同研究の研究成果に基づき開発されたランドセル(商品名:ニトリのランドセル わんぱく組メチャ!ピカ & わんぱく組cubee、発売日:2020年3月中旬)は、科学的な研究成果に基づき子どもたちの負担軽減を追求したデザインと機能性が高く評価され、2019年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞しました。受賞した商品は2019年10月31日から11月4日まで東京ミッドタウン(東京都港区六本木)で行われるグッドデザイン賞受賞展「GOOD DESIGN EXSIBITION 2019」で展示されます。

共同研究概要

代表者:

・上智大学 理工学部機能創造理工学科 准教授 竹原 昭一郎
・株式会社ニトリ 商品部 シーゾナル・育成企画 バイヤーマネジャー 高嶋 久弥

ポイント:

・子どもたちが、ランドセルの背負い心地に対してどのような評価構造を持っているかを明らかにすることで、学術的な根拠に基づく「子どもにとって快適なランドセル」の開発を目指した。

・子どもたちの評価で、「良い」に最も大きく影響する要素は、「(背中が)気持ちいい」と「走りやすい」。

・ランドセルの生地で、背中と接する面の滑りにくさを上げることで、子どもの身体負荷軽減につながる結果が得られた。

・子どもの主観で快適であり、さらに身体負荷の軽減が見込まれるランドセルが生まれた。

1.開発背景

学習指導要領の改定に伴う学習内容の増加によって、近年、小学生の教科書の重量が増しています。子どもの荷物が過重になることで、子どもたちの身体の健やかな発達に影響が生じかねない等の懸念が挙げられており、学校現場では、家庭学習で使用する予定のない教材等を、机の中などに置いて帰るいわゆる「置き勉」を認めることや、携行品の分量が特定の日に偏らないような工夫がなされています(注1)。子どもの往復通学時間は、全国平均で40分以上(注2)となっており、特に体の小さな低学年の子どもにとって、通学時の身体的負荷が大きいことから、現在市場にあるランドセルには、各社の工夫により軽量化が図られています。

ランドセルの「軽さ」を謳った商品が多くある一方で、教科書等の内容物が重いため、子どもが背負う荷物全体の重さの中で、ランドセル自体の重量の占める割合は減っています。そのことから、相対的にみると、「ランドセル自体を軽くすること」が背負い心地に与える影響は小さくなっていることが予想されます。また、ランドセルには、頑丈さや十分な容量など、軽さ以外にも多くの機能が求められ、更なる軽量化は簡単なことではありません。

本研究チームは、ユーザーである子どもたちが、ランドセルの背負い心地に対してどのような評価構造を持っているのかを明らかにし、さらに数値シミュレーションを用いて身体負荷の解析を行うことで、学術的な根拠に基づく「子どもにとって快適なランドセル」の開発を目指しました。


注1)子どもの荷物の重さや量への配慮:文部科学省から2018年9月に発出された事務連絡「児童生徒の携行品に係る配慮について」より。
注2)平均往復通学時間:総務省 統計局「平成28年社会生活基本調査」によるデータでは、10歳以上の小学生の往復通学時間(国公立/私立、平日、電車・バス等の利用含む)の全国平均が48分(最長64分、最短39分)となっている。

2.研究成果

本研究では、子どもたちの評価構造を見える化する心理的なアプローチ、および、身体負荷軽減の解析を行う力学的なアプローチの両面から、「子どもにとって快適なランドセル」を追求しました。

心理的なアプローチでは、感性工学的な観点から子どもにとっての「快適」についての理解を深め、快適につながる要因を探し、数値化することを目指しました。まず、SD法(注3)を用いて、仕様の異なるランドセルに対する子どもたちの評価を分析しました。さらに、SD法アンケートを統計的に分析し、質問項目とその背景にある要因との因果関係を探りました。さらに、「良い」に最も大きく影響する要素を重回帰分析(注4)によって抽出しました。その結果、「良い」に最も大きく影響する要素は、「(背中が)気持ちいい」と「走りやすい」であることがわかりました。これらは、親を対象にしたアンケートでは、重要な要素として出てこなかったキーワードです。

次に、マルチボディダイナミクス(注5)を用い、頭部、胸部、腹部からなる人体モデルに対して、ランドセルモデルをばねで接続した数値シミュレーションモデルを開発し、ランドセルの特性がランドセルの動的な挙動へ与える影響を検証する力学的なアプローチを行いました。関節を動かすために使う力を表す「関節トルク」を指標に検証したところ、生地の滑りにくさを示す摩擦係数を上げることで、身体負荷軽減につながる結果が得られました。


注3)SD法(semantic differential method):反対の意味を持つ形容詞を尺度の両端に置いた評定尺度群を用いて、対象の与える感情的なイメージを5~7段階程度で評定する方法。
注4)重回帰分析:一つの評価項目を複数の評価項目で表す式を作成する方法。
注5)マルチボディダイナミクス:多数の物体や部品からなる構造物や機械の運動や制御を扱う学問。複雑な物体の動力学の解析に用いられる。

3.今後の展開

本研究では、子どもたちの評価構造の分析を根拠とする新たな評価指標を見つける試みを行い、快適なランドセルの重要な鍵として、「(背中が)気持ちいい」「走りやすい」という子どもならではの価値を見つけました。

2020年度に新学習指導要領が実施されるなど、今後も、子どもの学びの環境は刻々と変化していきます。本研究が、まだ的確な言語で表現できない子どもの中にある感覚を言語化した取り組み例として、子ども目線での商品開発技術の向上に貢献できることが期待されます。


本リリース内容に関するお問合せ

竹原 昭一郎
上智大学 理工学部機能創造理工学科 准教授
stakeha@sophia.ac.jp