あの日の衝撃を胸に刻んで、文学の観点から私が紐解く人種差別。

木村 まりの
文学部 英文学科4年

「歴史的背景を知らなければ、その作品の重みも作者が伝えようとしていることも分かりません」と話す文学部英文学科4年の木村まりのさん。黒人差別を目の当たりにしたことをきっかけに米国南部の文学に興味を持った彼女が、作者の想いを読み取る過程で得た数々の教訓とは?

原文を読むから、作者の想いやメッセージが正確に読み取れる

私が英文学科を選んだのは、人種差別や黒人差別の問題を文学の観点から学びたいと思ったからです。高校時代に留学したアメリカで黒人差別の現状を目の当たりにして衝撃を受け、このような問題に関心を持つようになりました。

専門はアメリカ文学ですが、その中でも黒人差別問題が頻繁に扱われる米国南部の文学を中心に学んでいます。私にとって忘れられない一冊となったのは『ある奴隷少女に起こった出来事』という作品。実際に奴隷となった少女の人生を追体験する中で、人種差別を取り巻く数々の問題に気づかされ、深く考えさせられました。

上智の英文学科は必修授業でも10~15名と小規模。入学当初から基礎的な英語力を向上させるカリキュラムがあり、英語で議論した内容を発表する「ディスカッション&プレゼンテーション」の授業が特に印象に残っていて、先生方から手厚いサポートを受けながら発信力を高めることができました。クラスメイトとの交流も深まりましたね。

また、英文学科の英語の授業は、英語の習得ではなく文学作品を読み解く力を高めることが目的です。通常の語学クラスとは違ったアプローチで英語を学ぶことができるのも英文学科ならでは。これらの授業を通じて、1年生から原書を読解する力を養うことができたと感じています。

翻訳なしの原書を読むことは簡単なことではありません。でも私は大きな意義があると思っています。授業で英語の作品を日本語に翻訳するというグループワークに取り組んだことがあったのですが、英語で理解した内容を日本語にするのは想像以上に大変で、翻訳された文章からは本来の意味が正確に読み取れないということを実感したんです。

英語と日本語の2言語で読みこむからこそ、そのニュアンスの違いを汲み取り、文学作品に込められた作者の想いやメッセージを正確に読み取れるようになる。私にとって英米文学を学ぶ面白さは、まさにここにありますね。

背景を理解すれば、文学作品や世界情勢に対する理解も深まる

英米文学を学ぶ過程では、人や物事を自分の価値観で判断しないことの大切さも学びました。これは、同じ作品を前にしても、人によって見方が違うということを常に感じていたからです。授業で『チャーリーとチョコレート工場』を扱った際に、この作品を植民地主義の観点から読み解く機会がありました。そのような視点で作品と向き合うことに驚きましたし、さまざまな角度から物事を見ることの重要性を痛感するきっかけの1つとなりました。

物事の背景を知ることの大切さも、この4年間で学んだことの1つです。歴史的な背景を調べると、作品が生まれた理由も見えてきて面白い。「当時このようなことがあったから、こういう思想の作品が生まれたのか」という関係性に気づけたときは嬉しいですし、その作品から学べることも増えてきます。逆に歴史的背景を知らなければ、その作品の重みも作者が伝えようとしていることも分からない。これは世の中の全ての事象に対しても言えることではないでしょうか。

例えば、パンデミックやハリケーンなどの非常時には、“Black Lives Matter (BLM)”のような人種差別への抗議運動が活発化する傾向にあるのも、経済的な格差から黒人が白人より下の立場に追いやられているという長年の背景があってこそ。

平時はそれが日常の中に隠れていても、有事の際は弱い立場の人々がより困難な状況に追い込まれるため、問題が表面化する。このような背景を考慮すると、ソーシャルメディアで“BLM”というハッシュタグが拡散され、トレンドのように扱われることに対する見方も少なからず変わるんですよね。英米文学を通して背景を知ることの重要性を学んだからこそ、このような視点を身につけることができたのだと思っています。

学部学科も国も越えて、さまざまな角度から差別を学ぶ

文学部では学科の垣根を越えて7学科が連携する「文学部横断型人文学プログラム」があり、私も履修しています。ジャズとBLMの関係性を探る授業など、英文学科とは異なるアプローチで学ぶことができるので、とても面白いですね。

上智は他学科の授業も比較的簡単に履修できるのですが、障がい者に対する心理的な差別意識を扱った心理学科の「コミュニティ心理学」は、自分の専門とも関係しているので特に印象に残っています。今まで文学を通して見ていた差別を心理学という全く違う観点から学ぶというのは新鮮でしたし、自分の視野を広げることにも繋がりました。

この4年間では、交換留学プログラムを利用し、ジャズの発祥地として有名な米国南部のニューオーリンズに1年間の留学も果たしました。異なる人種に寛容な都市と言われるだけあって、黒人、白人、ヒスパニック系、アジア系と、実に多様な人々が集う街でしたね。分からないことや不安なことばかりで他の国の留学生と助け合う毎日でしたが、そのおかげで今まで以上に周囲の人とコミュニケーションを取ったり、人を頼ったりということができるようになりました。

来年からは社会人となりますが、経験を積んで周囲から頼りにされるような人間になることが現在の目標です。コミュニケーションに対する姿勢や協調性は、これからも変わらずに持ち続けたい。アットホームな上智のキャンパスでできた友人たちとの縁を大切にして、交流を続けていきたいと思っています。

※この記事の内容は、2021年11月時点のものです

上智大学 Sophia University